レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

南蛮阿房列車


作家・内田百閒氏は熱心な鉄道ファン(乗り鉄)として知られていて、かつて「阿房列車」という鉄道旅行の紀行文シリーズで人気を博しました。

タイトルにある"阿房"とは始皇帝が建立した宮殿「阿房宮」が由来らしく、彼が鉄道旅行の際には金を惜しまずつねに1等車に乗るモットーであることから名付けられたようです。

それから四世紀半が経過し、内田氏も亡くなった頃に作家・阿川弘之氏が阿保列車シリーズの続編を執筆する決意をします。

それは阿部氏が自他ともに認める鉄道ファン(しかも内田氏と同じ乗り鉄)であり、本書のタイトルにある"南蛮"は日本を飛び出して世界を舞台にした鉄道旅であることから名付けたものです。

私自身が鉄道ファンというわけではありませんが、紀行文を読むのは好きなこともあり本書を手にとってみました。

本書で紹介される鉄道旅は"南蛮"と冠するに相応しく、イギリス&スコットランド、マダガスカル、タンザニア、アメリカ、カナダ、欧州各国、モロッコ、台湾と多岐に及びます。

旅の同行者として狐狸庵(遠藤周作氏)マンボウ(北杜夫氏)といった人たちが登場し、ファンにはお馴染みの愉快なメンバーで鉄道旅を楽しんでゆきます。

しかし本当の意味でこの旅を楽しんでいるのは、阿部氏だけかも知れません。

何故なら同行者は途中までは付き合うのですが、一昼夜にわたり鉄道に乗った挙げ句、飛行機に35分乗って出発地に戻ってくるなど、まさに鉄道に乗ることが手段ではなく目的となっている著者に途中から付き合いきれなくなるからです。

著者は列車に乗って居眠りばかりしている同行者たちをユーモアたっぷりに軽蔑していますが、さすがに私に読みながら同行者の方を同情してしまうほどです。

それでも車内の様子や車窓から見える景色、さらには列車やレール、駅などの描写を見ていると、本当に著者が鉄道好きなことが伝わってきて、読む分には不愉快さは微塵もなく、むしろ微笑ましさを感じます。

また旅の中で同行者や現地の人たちとのやり取りも面白く読むことができ、私の中では硬派な作家である阿部浩之氏の意外な一面を見た気がします。

とても著者のような旅を真似する気は起きませんが、旅を疑似体験で楽しむことができる紀行文の魅力を充分に備えている1冊であることは間違いありません。

本作品は続編も刊行されているようであり、本家(元祖)である内田百閒氏の「阿房列車」も併せていつか読んでみようと思います。