中原の虹 (2)
馬賊は騎馬民族としての文化・歴史を背景に持っていますが、元々は強盗から村を守る自警集団を発祥としていましたが、戦乱の中で彼ら自身も強盗を働くようになり、当時の満州では数多くの馬賊が存在していました。
馬賊の頭目(攪把)として張作霖は他の馬賊を次々と打ち破って支配領土を広げてゆき、満州馬賊の長(総攪把)としての地位を固めてゆきます。
本作品で描かれている馬賊の戦闘は、残忍そして時には騙し討ちも厭わない強烈なものであり、さながら日本の戦国時代を生き抜く野武士軍団といった雰囲気があります。
当時の満州は、生き馬の目を抜くような危険で混沌とした過酷な地域であり、この地で頭角を現すには、張作霖のように武力、知力、戦闘指揮、そしてカリスマ性を兼ね備えていなければ到底生き抜くことの出来ない場所でもありました。
一方、本作品のもう1つの舞台である北京では、西太后が清の運命を一身に背負っていました。
独裁者として"悪女"のイメージの強い西太后ですが、近年では"女傑"として、列強各国の干渉を受けつつも半世紀にわたり清の独立を保ち続けた政治的手腕を高く評価する意見もあります。
しかしそれは、西太后の命が尽きた時に清の時代も終焉を迎えることを意味していました。
新しい時代を切り開こうとする人間と、今までの世界を守ろうとする人間の対比が鮮やかに描かれているのも本作品の特徴であり、単純な善悪二元論を超えたドラマが繰り広げられます。
また読者に分かり易く伝えるために、清の運命を見届けようと北京に駐在するアメリカや日本などの新聞記者たちの目線からも物語を進めてゆきます。
いわば本作品に登場する新聞記者たちは、複雑な時代背景をナビゲーションする役割を担っており、作品全体からすれば枝葉に過ぎない部分ですが、この部分にも著者の手を抜かないストーリー展開が見てとれ、読者を飽きさせません。
2巻を読み終わった時点で果たして全4巻で物語を完結できるのかと心配になってしまうほどの濃厚な展開が続きます。