中原の虹 (1)
浅田次郎氏による清末期に活躍した張作霖を主人公とした歴史小説です。
張作霖といえば満州を実質的に支配するにまでに至った馬賊出身の北洋軍閥所属の軍人であり、後に関東軍(日本軍)の策略にって暗殺されたとされる人物です。
この張作霖爆殺事件は、帝国主義を掲げる日本の満州併呑実現のための布石であり、太平洋戦争へ至る遠因として教科書に記載されていた記憶があります。
日本史を中心に見ると、悲惨な戦争、そして敗戦へと突き進む暗い時代の始まりですが、個人的には満州を舞台としたこの時代には非常に興味があります。
その魅力を一言で表すのは難しいですが、まず当時の中国は、清の利権を狙う(イギリスやアメリカなどの)列強各国の思惑を背景に、清を支えようとする独裁者の西太后、その下にあって密かに野心を抱く北洋軍閥総裁の袁世凱、そして清打倒を掲げて新しい時代の幕開けを目指す革命家の孫文といった四つ巴(?)の混乱状態にあります。
それに加えて満州では、日露戦争に勝利して一層の利権を広げようとする関東軍(日本軍)、失地奪回を狙うロシア、張作霖を筆頭とする馬賊勢力といった要素が加わり、壮大な草原を舞台にした世界に類を見ない陰謀渦巻く混沌さに惹かれるものがあります。
満州といえば清を建国した女真族(満州民族)発祥の聖地であり、中国と完全に同化してしまった北京の中央政府とは違い騎馬民族としての文化が根強く残っている地域でもあり独特の雰囲気を持っています。
本作品は史実に忠実であるより、時代の雰囲気を出すために伝説や伝承といった要素を重視するスタイルで書かれている長編歴史小説です。