天地明察 (下)
引き続き、貞享暦(大和暦)を生み出した渋川春海を主人公とした「天地明察」下巻のレビューです。
春海が改暦を実現するまで日本は862年に唐からもたらされた宣明暦を800年以上に渡り使い続けており、その精度の低さから当時は2日もの時差が発生し、様々な弊害が生まれてきました。
しかし一言で改暦といっても"暦"は時間を支配することを意味し、人々の日常生活のみならず、政治・宗教的な行事にも深く根ざしているため、政治力学の観点からも多くの困難を伴います。
多くの挫折を味わい、地道な測定調査、そして政治的な工作をも駆使して改暦を実現した"渋川春海"には多くの協力者が現れ、ついには日本に初めての国産暦が制定するに至ります。
長年の慣習を打ち破ったその功績が、その後江戸時代において何度か行われる改暦の先鞭を付けた点でも注目されるべき出来事です。
つまり本作品のテーマはズバリ"改革"です。
当初は良くとも、時代の移り変わりと共に弊害となる伝統や制度が出てくるのは仕方ありません。
しかし長い年月にわたって続けられた物事は様々な権威や既得権益によって何重にも保護されていることも珍しくなく、それを改めることには多くの人々の努力や情熱といったエネルギーが必要です。
戦後続いた日本の政治や行政制度にも同じことが言え、それを打破するための改革が決して夢物語ではないことを、本作品に出てくる人物たちが示してくれているのではないでしょうか。