レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ゲゲゲの女房

ゲゲゲの女房 (実業之日本社文庫)

本書は漫画家"水木しげる"の妻、布枝さんの自伝です。

水木しげるファンとして以前から気になっていた1冊ですが、ようやく読む機会が巡ってきました。

水木しげるは出兵したラバウルで片腕を失う大怪我を負って帰還します。
その後は職業を転々とし、やがて売れない漫画家として赤貧の生活を送るようになっていましたが、その真っ最中に2人は結婚することになります。

夫39歳妻29歳という当時から見れば晩婚夫婦の誕生でした。

布枝さんは控えめで大人しく、昭和のよき妻といった印象です。

結婚と同時に島根県安来市から上京するも売れない漫画家(当時は貸本作家)に嫁いだ宿命というべきか、とにかく貧乏な生活を余儀なくされます。

しかし生まれた子どもに飲ませるミルク代もない日々の中で、不思議と希望を失わない芯の強さがありました。

売れなくとも全身全霊をかけて絵を書き続ける夫に連れ添う布枝さんは、決して自分の感情を殺して追従しているのではなく、夫の成功を疑いもなく確信しているからなのです。

水木しげる氏の自伝は何作品か読んでいますが、どれも妻(布枝さん)へ対して深く言及したものはありませんでした。

一方で、本作品は(私は読んでいませんが)映画やドラマ化されるなど、様々なメディアに取り上げら話題となりましたが、内容は思ったより普通だったというのが個人的な印象です。

つまり規格外の水木しげる氏とは対照的に、妻の布枝さんは常識と良識を併せ持った女性だったかでしょう。

とはいえ本作品が決して"つまらない"ということではありません。

亭主関白が当たり前だった時代において"内助の功"という言葉は普通でしたが、現在では殆ど使われなくなりました。

だからこそ、それを体現した布枝さんへ脚光が当たったのだと思いますし、何よりも布枝さんの深い愛情が世代を超えて多くの人に共感されたのではないでしょうか。