レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

天地明察 (上)

天地明察 上 (角川文庫)

著者の冲方丁氏は元々SF作家としてデビューして活躍を続けていましたが、2009年に初めて発表した歴史小説が本作にあたります。

今年は本書を原作とした映画が公開され、話題を集めている作品です(見ていませんが。。)。

主人公は江戸前期に貞享暦(大和暦)を編み出した渋川春海(しぶかわ・はるみ)です。

春海は将軍家に囲碁を以って仕える碁衆安井算哲の長子として生まれますが、数学・暦法に興味を持ち、やがて保科正之徳川光圀などのバックアップをはじめ、多くの協力者の支えもあって改暦を実現するに至ります。

江戸前期とはいえ世の中は「島原の乱」を最後に平和な時期を迎えており、人々にとって戦国の動乱は遥か過去のものになっていました。

つまり一国一城の主を夢見て立身出世を目指す武将の時代は終わり、本書の主人公である春海のような学問や技術、そして文化面で活躍する人たちの時代が到来しました。

戦国武将たちのような派手さはありませんが、自らの信じる学問や研究に生涯を捧げる人びとの姿を作者の視点でしっかりと捉えており、完成度の高い作品に仕上がっています。

のぼうの城」の主人公"成田長親"もそうですが、最近はマイナーな歴史的人物にスポットを当てる作品が注目を浴びています。

たしかに歴史的な偉業を成した人物については、過去に著名な小説家たちが長編大作を発表しています。

加えて知名度の低い人物に関しては残されている歴史的資料も少ないことから、作者が創作自由度の高い作品を書けるメリットもあります。

よって今後もこうした傾向は続くのではないかと思われます。