レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

甲子園球場物語

甲子園球場物語 (文春新書)

大正13年(1924)に建設された歴史と権威を誇る甲子園球場

本書はひたすら甲子園球場から定点観測を行うように、その歴史を振り返った1冊です。

スポーツとしての野球そのものは明治初期に日本に伝来していましたが、日露戦争・第一次世界大戦を経て自他共に認める先進国入りを果たした時代を背景に、野球発祥の地アメリカで完成した世界一のヤンキースのスタジアムに負けない球場を建設すべく、阪神電鉄の手によって甲子園球場が建設されました。

徹夜組が出るほどの盛況ぶり、そして"タイ・カッブ"や"ベーブ・ルース"たちをはじめとした大リーガーの来日、昭和9年にはプロ野球が誕生し、日本の野球熱は甲子園を中心に高まりつつありました。

しかし近づく軍靴の音と共に、甲子園球場も暗い時代に入ってゆきます。
太平洋戦争の開戦以降も、国家統制を進める東條内閣の圧力下でギリギリまで野球を開催し続けようとする関係者たちの努力は涙ぐましいものがありますが、内野を覆う屋根(大鉄傘)を軍部へ供出させられるなど、甲子園球場にとって暗黒の時代が訪れます。

そして何よりも悲しむべき事は、若い球児たちが遠い異国の地で散っていったことではないでしょうか。

終戦と共に甲子園は進駐軍に接収されることになりますが、GHQのバックアップもあり何よりも早く復興したスポーツも野球でした。終戦の翌年(昭和22年)には早くも春のセンバツ大会が再開され、終戦の物資の不足している時代にも関わらず、甲子園球場には多くの人びとが訪れました。

その後の日本の復興・成長と共に華やかな歴史を彩った甲子園球場は、近代日本の栄枯盛衰を見続けてきた存在であるといえます。

また本書では意外と知られていない甲子園の歴史にも触れられています。

  • かつて三塁側アルプススタンド下には温水プール、一塁側には体育館があった
  • 大正13年から現代まで売店のNo1人気メニューは"カレーライス"である。
  • 甲子園での最長試合は延長27回(昭和8年の中京商VS明石中)
  • 甲子園でスキージャンプ大会が開催されたこともあった。

高校野球ファンや阪神ファンでなくとも楽しめること間違いなしの1冊です。