レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

山椒魚

山椒魚 (新潮文庫)

昭和を代表する小説家・井伏鱒二の短篇集です。

氏の作品を読んだのは今回がはじめてです。

若き日の太宰治が弟子入りしたことからも分かる通り、その文才は誰もが認めるものでした。
(ただし後に2人の仲は悪くなるようですが。。)

本書には若き頃の井伏氏の代表的な短編が8作品収録されています。

  • 山椒魚
  • 朽助のいる谷間
  • 岬の風景
  • へんろう宿
  • 掛持ち
  • シグレ島叙景
  • 言葉について
  • 寒山拾得

どれも質の高い代表的な作品ばかりです。

当然のように短編ごとに主人公が登場しますが、どれもその生い立ちに深く言及した作品はありません。

しかし「」を題材にした作品が多いことを考えると、旅行好きだった自分自身を投影したものであることは容易に想像できます。

綿密で微妙な"場面"と"心理"の描写がある一方で、過去や未来については、おぼろげな描写で留めているのが印象的で、一旦読みはじめると、その繊細な描写についつい引きこまれてしまう魅力があります。

最近はエッセーやドキュメンタリー、そして長編小説を中心に読んできたこともあり、文学的な短編小説に特徴の「行間を読む思考」を久しぶりに体験しました。

一方で話の起伏は殆どなく、どれも均一な印象を受けたのも事実であり、例えば弟子入りした太宰治とは明らかに異なるタイプの作家です。

初めて読んだ作家の作品ですが、他の作品も読んで紹介してゆこうと思います。

秋の夜長にじっくりと読むのに相応しい小説です。