マンボウ交友録
すっかり北杜夫氏のマンボウシリーズに魅了されてしまい、本ブログでの紹介も5作品目になります。
「マンボウ・シリーズ」という表現をしましたが、基本的に各作品は独立したエッセーなどの形式をとっているため、どの作品から読み始めても問題ありません。
シリーズの中でも有名な作品以外はあまり重版されていないようですが、図書館や古本屋へ行けば手軽に入手することができます。
本書はタイトル通り、北杜夫氏の交友録をエッセーとして作品化したものです。
10人との出会いから現在に至るまでのエピソードが紹介されていますが、もっとも注目すべきは遠藤周作氏との交友録です。
それは遠藤周作こと狐狸庵山人の「ぐうたら交友録」にも北杜夫氏が登場し、とても楽しいエピソードが紹介されています。
しかし北氏は、「ぐうたら交友録」に書かれている自らのエピソードは"作り話"や"大げさ"だと反論します。
確かに著者の弁明を読む限り、遠藤氏のエッセーの内容は誇張されている感があります。
もちろんそれが悪意を持って書かれているものではなく、遠藤氏一流のユーモアであることは読者から見ても明らかです。
つまり著者にとてって遠藤氏は面倒見のよい先輩であると同時に、色々と迷惑な存在でもあるようです。
北氏は自らも認めているように"躁鬱(そううつ)症"であり、躁の時には積極的に仕事をバリバリこなしますが、鬱のときには何事にも億劫になって家に閉じこもりがちになります。
同じような体験をしても、その時の状態によって作者の心境や行動までもが随分と違って来ることを本人は充分に自覚しており、最終章は作家「北杜夫」が、自らをニックネームである「どくとるマンボウ」に模して客観的に描くといった面白い手法をとっています。
そこで自らの弱点を次のように書いています。
北杜夫はたいそうな清純作家で、セックスはほとんど書かない。といっても彼も男性である。バーのホステス嬢とデートすることもある。
これがあんがい、ハッとするような美女で、もし北杜夫があまり人相のよくない女性と歩いていたら、それは彼の奥さんだと世人は察するべきであろう。
ただ、せっかく美女とデートしても、結局は何もしないということは彼の最大の欠点である。
もちろん海千山千の北氏のことですから、まったく鵜呑みにすることは出来ませんが、エッセーの至るとことからこうした著者の人柄が染み出しているようで、のんびりと平和な気分にさせてくれるのです。