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敗れざる者たち

敗れざる者たち (文春文庫)

今から約40年前に出版された沢木耕太郎氏のノンフィクション作品です。

沢木氏は戦後間もない団塊世代の生まれであるため、20代半ばから後半にかけての執筆した若い頃の作品です。

本書は以下の6つの作品で構成されていてます。
(カッコ内に各作品の競技と主人公を追記してみました)

  • クレイになれなかった男(ボクシング/カシアス内藤)
  • 三人の三塁手(プロ野球/難波昭二郎・土屋正考)
  • 長距離ランナーの遺書(マラソン/円谷幸吉)
  • イシノヒカル、おまえは走った!(競馬/イシノヒカル※競走馬)
  • さらば 宝石(プロ野球/榎本喜八)
  • ドランカー <酔いどれ>(ボクシング/輪島功一)

私の生まれる前に活躍したアスリートばかりですが、それでも何人かは知っている有名人も登場しています。

栄光を極めた人もいれば不運にもそこまで辿りつけなかった人、今も元気に活躍している人もいれば、不遇の後半生を過ごしたり、夭折さえした人もいます。

そんな彼らに共通しているのは、大きな挫折(敗北)を味わっていることです。

栄光と敗北はコインの裏表の関係であり、一度栄光を手にしたアスリートが明日の敗者となってもおかしくない厳しい世界です。

もちろん1度も栄光を手にすることなく去ってゆく数多のアスリートがいることも忘れてはなりません。

この作品を執筆当時の著者が若い20代であることを考えると、敗北よりは栄光を極めたスター選手を題材にしそうなものです。

しかし以前紹介した「一瞬の夏」でも感じたことですが、沢木氏は敗北の中にこそ「勝負の世界」をリアルに実感できる感性を持った作家です。

また挫折を味わったアスリートがそれでも情熱を失わず、再び頂点を求めて再起する姿に共感、もっと平たく言えば自身の姿と重ね合わせてしまう性分なのかも知れません。

この作品では、敗北や挫折を味わうアスリートにスポットライトを当てながらも、決して彼らを手放しで賞賛することはありません。

むしろ作品全体からは、残酷なまでにありのままの姿を記録したドキュメンタリーといった感じさえ漂っています。

それでも読者を惹きつけてやまないのは敗者の美学、それとも燃え尽きることにない情熱や執念なのか?

おそらく読む人によって感じるものがそれぞれ違うのが、このノンフィクション作品の醍醐味なのかも知れません。