レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

お伽草紙

お伽草紙 (新潮文庫)

太宰治氏による中期の作品です。

日本の古典や伝承(昔話)へ太宰独自の視点を取り入れて書かれた作品であり、作家として意欲的で挑戦的な姿勢が見られます。

本書に収められている作品は以下の通りです。
  • 盲人独笑
  • 清貧譚
新釈諸国噺
  • 貧の意地
  • 大力
  • 猿塚
  • 人魚の海
  • 破産
  • 裸川
  • 義理
  • 女賊
  • 赤い太鼓
  • 粋人
  • 遊興戒
  • 吉野山
  • 竹青
お伽草紙
  • 瘤取り
  • 浦島さん
  • カチカチ山
  • 舌切雀

新釈諸国噺は江戸時代の"井原西鶴"の浮世本をモチーフにした作品ですが、古典ともいえる作品を太宰氏が見事に現代風に再構築しているのが印象的です。

もともと井原西鶴と太宰氏の相性がピッタリなのかもしれません。

まえがきに(冗談半分に)井原西鶴を世界一偉い作家として持ち上げるあたりが太宰氏らしいといえます。

1つ1つの物語は単純ですが、それだけに人生を縮図化したような味わいがあり、ユーモラスで哀しい物語を太宰氏が得意とするセリフ回しや心理描写で鮮やかに切り取っていきます。

続いてお伽草紙は、昔話を大宰風にアレンジした作品であり、タイトルだけ見ても日本人なら誰もが知っているものばかりです。

昔話はけっして子ども向けに創作されたものではなく、民間伝承として語り継がれてきたものが原型であるため、ときには理不尽で残酷です。

本質的には、太宰氏の視点から観察する人間社会も似たようなものであり、むしろ擬人化され単純化された物語の中にこそ、人間の残酷な本性や、単純な勧善懲悪を超えたリアリズムを見出したのではないでしょうか。

本書に収録されている作品は、いずれも戦前から戦中に書かれています。

戦争一色に染まった世相にあって、太宰氏の覚めた視点と鋭い批評が冴え渡っている代表的な作品であるといえるのではないでしょうか。