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新サハリン探検記―間宮林蔵の道を行く

新サハリン探検記―間宮林蔵の道を行く

吉村昭氏の歴史小説「間宮林蔵」を読んで、是非とも併せて読んでおきたいと手にとった1冊です。

知床からわずか半日(江戸時代でも1日)の航行で辿り着けるサハリン(樺太)は、日本にもっとも近い外国の1つです。

サハリン島の面積は北海道に匹敵し、特に南樺太は江戸時代から昭和初期にかけて日本の領土だった歴史的に関わりの深い場所でもあります。

本書は北海道新聞のサハリン(ユジノサハリンスク)特派員として1年間を過ごした著者が、現在のサハリンを紹介した1冊です。

たとえば北海道のはるか北方に位置するカムチャッカ半島は、世界遺産に登録された後にTVで何度か紹介されたこともあり、サハリンに比べて知名度が高いという印象があります。

つまりサハリンは日本にこれだけ近い島であるにも関わらず、多くの日本人がその実情を知らないというのが現実ではないでしょうか。

サブタイルを見ると、著者が間宮林蔵の足取りを辿ることがメインテーマと思われますが、現在のサハリンに住む人々の生活、豊かに残る自然、1995年に多くの犠牲者を出したサハリンの北部地震などについても多くのページを割いて紹介しています。

内容も著者の職業が新聞記者ということもあり、テーマごとに内容がよくまとまっています。

さらに北方領土(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)についても章を割いており、実際に現地に赴いて蓄積する課題や問題点を的確に指摘しているように思えます。

サハリンをテーマにしたタイトルでありながらも、当然のように北方領土について言及しているあたりに北海道新聞の記者としての責任感を感じずにはいられません。

それでも本書のもっとも重要な価値は、1年間を通してサハリンで生活した経験を持つ日本人はごくわずかであり、その経験を元にして執筆された本という希少さではないでしょうか。

サハリンはロシアが実効支配し、国際的にもその領有権が認められています。

しかし日本政府は積極的にサハリンの領有権を主張こそしていませんが、正式にロシア領であることも認めていません。

もちろん北方領土返還の優先度が高いという方針は理解できますし、政治的にも同じタイミングでサハリンの領有権を主張するのは得策でないという考えも分かります。


現代のサハリンの経済は疲弊し、文化や伝統は失われつつあり、治安の悪化など様々な問題を抱えている状態であり、是非とも1人でも多くの日本人に読んで知ってほしい1冊です。