レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

賞の柩

賞の柩 (集英社文庫)

帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)氏による本格医療サスペンスです。

医学研究、そして研究者たちにとっての最高の栄誉であるノーベル賞の影に潜む闇をテーマにしています。

医学に限らず様々な研究においても、例えば会社に勤める営業マンのように成果が常に求められ、我々が抱いているイメージ以上に世俗的で、かつ精神的にも肉体的にもプレッシャーを受け続ける厳しい世界です。

そんな栄光と挫折が交差する世界だからこそ、時には人間の弱い心に悪魔が囁きかけることがあるのです。

まさにSTAP細胞の論文が世間を騒がせている最中であり、旬の話題とも重なる作品です。

ストーリー自体は、サスペンスというよりも探偵小説に近いイメージを抱きました。

東京、パリ、ブタベスト、そしてロンドンなど世界中を舞台に謎に迫る青年医師・津田。

彼はロンドン大学教授、アーサー・ヒル博士がノーベル生理学賞を受賞したことをきっかけに、数年前に白血病で亡くなった自らの恩師・清原教授の死に違和感を覚えたところから、その謎を明らかにするために旅に出ることを決意します。

純粋なサスペンス作品として評価すると意外性の少ないスタンダードな作品ですが、著者の帚木氏は医師でもあることから、本書で描かれる医学研究の現場、そしてその理論には説得力があります。

あくまで本書は医療サスペンスであり、その世界の独自性や専門性、そしてさり気なく医学研究の抱える問題を提起しているという観点からは、ユニークで興味深く読むことのできた作品です。

帚木氏は歴史小説からノンフィクション風の作品まで幅広い作風で活躍しており、是非とも他の作品を読んでみたいと思わせる作家です。