君に友だちはいらない
世界レベルで消費者と投資家が結びつく"グローバル資本主義"が台頭して久しい現在、私たちが消費する食料品や日用品が外国製であることは当たり前であり、それはテレビやスマートフォンといった家電やデジタル製品においても当然となりつつあります。
まして日本メーカーの製品であっても、実際には外国で生産されていることも珍しくありません。
このグローバル資本主義の正体は、世界中の人々が「よりよい商品を、より安く」を望んだ結果であると著者は主張しています。
しかしこの結果として、企業は効率化を図り、オートメーション化によって多くの人が機械によって仕事を奪われる、また人件費の安い新興国に仕事が移管してゆくことによって、人間(労働力)のコモディ化が進行しています。
たとえば専門的な技能を持ったエンジニアが不足する一方で、専門性が必要とされない分野ではブラック企業によって労働力が不当に安く買い叩かれ、業績が悪化するや否や簡単に解雇されてしまうのです。
著者はこのコモディ化から逃れ、人間として豊かに幸せに生きてゆくためには"仲間"をつくることだと主張しています。
この「仲間=チーム」の理想的な形として紹介しているのが、黒澤明監督の「七人の侍」です。
随分と古い例ですが、よいチームには以下のような共通点があると指摘しています。
- 少人数である
- メンバーが互いに補完的なスキルを有する
- 共通の目的とその達成に責任を持つ
- 問題解決のためのアプローチの方法を共有している
- メンバーの相互責任がある
またチームとはミッションごとに結成されるべきであり、そのミッションが終了すれば解散するのが当たり前だとしています。
一般的な企業のように役職や年功序列によって組織される"部署"とは随分と違うことが分かります。
さらにフェイスブックをはじめとしたSNSを通じて気軽につながることのできる友だちは無意味であり、その友だちの数を競うことは弊害でさえあると断言しており、本書のタイトルの真意はここにあります。
著者の瀧本哲史氏には京都大学客員准教授という肩書がありますが、本業はエンジェル投資家です。
エンジェル投資家とは、個人的に自分の「持ち金」を、「事業アイデア」と「創業者」しかいないようなきわめて初期ステージのベンチャー企業に投資する人たちを指すようです。
そして著者は時流に合わせて変化してゆく「事業アイデア」よりも、そのチームのポテンシャルや可能性を重視する、つまり究極的には「人に投資」していると明言しています。
本書は「なぜよいチームが必要なのか?」、「よいチームとは何か?」、「よいチームはどのように結成するのか?」といった内容で構成されていますが、著者にとってはエンジェル投資家としての本業につながる本質的なテーマなのです。
本書はこれから起業を目指している人に留まらず、サラリーマンやフリーランスとして先行きに不安を感じている人にとってもこれからのワークスタイルを考える上で示唆に富む1冊になっています。