不格好経営―チームDeNAの挑戦
携帯電話に特化したオークションサイト「ビッダーズ」、「モバオク」を手掛け、SNS、そして携帯ゲームのプラットフォームとして躍進を遂げた「モバゲータウン」の運営会社であるDeNA(ディー・エヌ・エー)。
同社のサービスを利用したことの無い人でも、横浜DeNAベイスターズのオーナー企業として知っている人は多いはずです。
本書はDeNAの創業者である南場智子氏が執筆していますが、ビジネス書というよりDeNAの創業物語と自伝を兼ねたノンフィクション作品と位置付けるのが相応しいでしょう。
南場氏自身もビジネス書はほとんど読まないと告白しており、成功した企業の結果論にしか過ぎない、つまり同じことをしても失敗する人がごまんといると指摘している部分は同意できます。
本書の特徴はタイトルからも分かる通り、会社が成長するまでに経験した失敗のフルコースを詳細に執筆することに重きを置いています。
「人は成功よりも失敗から多くを学ぶ」という格言を持ち出すまでもなく、実際に痛い目にあわないと切実に学ぶことができない経験は私自身にも大いに当てはまります。
本書で紹介されている失敗の中には、DeNAが倒産の危機に瀕するような重大なものも含まれていますが、不眠不休も厭わず情熱とパワフルな馬力で障壁を次々と乗り越えてゆきます。
その過酷さは最近取り上げられるようになった"ブラック企業"と遜色のないものですが、"同じ目標に向かって全力を尽くし、達成したときのこの喜びと高揚感"が源泉となっている彼女たちの姿は、まさしく"ベンチャー企業"そのものなのです。
それはアスリートが過酷で苦しい練習を続け、オリンピックで金メダルを獲得した時の喜びに似ているのかも知れません。
南場氏はDeNAを立ち上げる前はマッキンゼーのコンサルタントとして働いており、当時は「自分が経営者だったらもっともうまくできるんじゃないだろうか」というおごりがありましたが、多くの失敗を通じて「コンサルティングで身につけたスキルや癖は、事業リーダーとしては役に立たないどころか邪魔になることが多い」とさえ考えるように至ったようです。
また経営を学術的に学ぶMBAについても自身の経験から、その有用性はかなり懐疑的だとも指摘しています。
ただいずれにしても本書に登場する数多くの失敗談はポジティブな雰囲気で書かれており、読者はまるでジェットコースターのような大きな起伏のある物語に一気に引きこまれてしまう面白さがあります。
それもわずか3人ではじめたベンチャー企業が10年を経ずに大企業へ成長するサクセス・ストーリーなのですから当然なのかも知れません。
あくまでも本書は経営の極意を伝えるものではなく、DeNAの場合のケーススタディに留まります。
しかし経営者やサラリーマン、学生という枠を超えて、多くの人たちを勇気づける1冊であることは間違いありません。