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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ゴマの来た道



著者の小林貞作氏のプロフィールには、植物細胞・遺伝学、放射線生物学とあり、ゴマの品種改良などで世界的にご活躍された研究家だったようです。

わたしたち日本人とってゴマは、料理からお菓子、またそれを原料とした植物油(ごま油)に至るまで食文化の中に深く溶け込んでいる食材です。

個人的にも未だゴマが苦手という人には出会ったことがありませんし、もちろん私にとっても欠かせない存在です。

しかしゴマという存在があまりにも日常に溶け込んでいるため、特別注目する機会もなく今まで過ごしてきましたが、本書はそのゴマの魅力を余すことなく紹介している1冊です。

ゴマの起源は古代アフリカにあり、発掘の結果から縄文晩期には関東以西で栽培されてきた可能性が高いということです。

つまり驚くべきことに日本人とゴマは、ほぼ稲作の開始と同じ時代にまで遡ることが出来るのです。

ごま油の原料となることから分かる通り、豊富で良質な植物性油脂をはじめ、タンパク質やミネラルなど栄養価の優れた植物であり、またその優れた旨味は、食べる者をゴマの虜にしてしまいます。

さらに乾燥に強いことから日照りにもよく耐え、少量で大きなエネルギーを提供してくれることから、古くから人間生存のために欠かせない植物として栽培され続けてきたのです。

そんなゴマは古代アフリカからさまざまなルートを経て、またその過程の品種改良の中でサバンナから寒冷地域にまで適応して世界中で愛されている食材となります。

本書ではゴマを利用した世界各国の食文化についても触れています。

またゴマの品種(たとえば黒ゴマと白ゴマの違いなど)や、著者自らが取り組んでいるゴマの品種改良にも言及されており、古代から現代に至るまでのゴマの遍歴がよく分かる1冊です。

本書によって普段何気なく食べているゴマに興味が湧くと共に、人類にとって大きな役割を果たしてきたゴマへ感謝せずにはいられなくなるのです。