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オー・マイ・ガアッ!

オー・マイ・ガアッ! (集英社文庫)

浅田次郎ファン
であれば、彼のギャンブル好き、そして忙しい作家業のすき間を突いて敢行するラスベガスのカジノ通いは有名です。

本書はそんなラスベガスを舞台に、スロットマシンで史上最高額のジャックポット5400万ドルを引き当てた3人を主人公にした物語です。

私は当然のようにラスベガスへ行ったことはありませんが、ギャンブルのメッカであると同時にネオンに彩られた圧倒的な大金持ち、つまりセルブたちの街という印象があります。

しかし本書に登場する3人の主人公は人生につまずき、一発逆転に賭けてラスベガスのカジノを訪れ偶然にも出会うのです。


まずは大前剛(おおまえ・ごう)
友人(共同創業者)に会社の金と10年間付き合った彼女を奪われ、失意のうちにラスベガスへ降り立ちます。
彼の名前をアメリカ人が発音するとタイトルと同じ響きになります。

そして梶野理沙
キャリアウーマンだった彼女は衝動的に会社を辞め、辿り着いたラスベガスで娼婦としてその日暮らしを送っています。
もちろん彼女の苗字は"カジノ(casino)"にかかっています。

最後にジョン・キングスレイ
海兵隊で「不死身のリトル・ジョン」として活躍したベトナム戦争の英雄は除隊後にアルコールに溺れ、家族も離散してしまい、人生最後の賭けに挑戦するためラスベガスを目指します。

前述した通り3人は史上最高額のジャックポットを引き当てますが、これが物語のクライマックではありません。むしろ、この空前の大金を目の前にして本当の物語が始まります。

主人公たち含めカジノネットワークを持つPGT社、ホテル・バリ・ハイ・カジノのオーナーやスタッフたちを巻き込んで、さまざまな人間ドラマが繰り広げられるのです。

やはり5400万ドルという現実離れしたジャックポットを話題の中心としているため、物語はシリアスな雰囲気ではなく、完全な喜劇として描かれています。

さらに色々な人間の喜怒哀楽がかなりのハイスピードで次々と繰り広げられますが、そこに人間がコントロールできない"運命"の存在を感じると同時に、金で買える幸せ、そして金で買えない幸せというテーマに迫ってゆきます。

数十億円の財産というのはちょっと想像がつきませんが、家のローンや教育費など現実的な金額を目の前にやりくりしている人たちにとってもお金の価値は普遍的なものではなく、必ずしも幸せの量と比例しないという当たり前のことを、この喜劇は再確認させてくれるのです。

ちなみに閑話休題のように挟み込まれている「ラスベガスは魂を解放する場所」と豪語する著者の私流トラベル・ガイドもストーリーの本筋とは別にかなり楽しく読めます。