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引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

陸奥爆沈


昭和18年6月、瀬戸内海において戦艦「陸奥」が謎の爆沈をとげます。

1121名もの犠牲者を出した大惨事であり、かつ現場が柱島泊地という日本海軍の重要な根拠地にも関わらず、戦時中ということもありこの事故は重要軍事機密として長い間外部へ漏れることはありませんでした。

別件の取材で桂島を訪れた著者が現地で陸奥爆沈という過去の事件を耳にし、その真相を探るために書き上げたのが本作品です。

機密として扱われ続けたこの事件は、本書の執筆を開始した戦後20数年が経過した時点でも原因が公表されていませんでした。

それを著者は命からがら救出された陸奥の元乗組員、事故の調査にあたった元海軍関係者、民間の専門家、そして残された記録から事故の真相に迫ってゆく戦史ドキュメンタリーとして書き上げています。

あいにく私は戦艦に疎いのですが、簡単に説明すると大正10年に完成し昭和11年に大改装を施した「陸奥」は、同艦型の「長門」とともに「武蔵」、「大和」が出現するまで世界最強の戦艦として名を馳せ、太平洋戦争当時においても日本海軍の主力を担っていた戦艦でした。

これだけ重要な戦艦を原因不明の爆沈事故で失ったことは軍首脳陣にとって衝撃であり、大幅な戦力喪失を敵国に知られないために、そして自軍の士気低下を憂慮してこれを徹底的な機密事項として処理し続けたのです。

艦隊の停泊所として利用されている穏やかな海で突如発生した爆発は、わずか2分で「陸奥」を海底へ沈めてしまい艦内にいた大部分の乗組員さえ何が起こったのかも知らずに命を落としていったのです。

軍艦は、多種多様の人間をつめこんだ容器とあるということを、調査を進めうちに実感として感じとった。組織、兵器(人工物)の根底に、人間がひそんでいるということを発見したことが、この作品を書いた私の最大の収穫であったかも知れない。

これはあとがきの一文ですが、今まで火薬の自然爆発説が有力だったこの事故を追ってゆくうちに意外な噂を知ることになります。

それが事実であれば栄光に彩られた帝国海軍の伝統や名誉を汚しかねない事件であり、そのために陸奥爆沈の事実が隠蔽され続けてきた可能性が出て来るのです。

歴史の闇に葬り去れかねない事故にスポットを当て、地道に調査を重ねて本書を完成させた著者の努力は驚くべきものであり、文句なしの名作ドキュメンタリーになっています。