村上海賊の娘(二)
和田竜氏の歴史小説「村上海賊の娘」の第2巻レビューです。
1冊あたり約300ページという標準的な文庫本の分量ですが、歴史小説の割には登場人物のセリフが多い構成になっているためサクサクを読み進めることができます。
また和田氏の作品はマンガのような躍動感のある描写が多く、若い世代の読者が歴史小説に興味を持つきっかけとなる作品として最適です。
主人公の女海賊・村上景は、能島(のしま)村上家の当主・武吉の娘として登場します。
彼女は家臣や兵士たちから"姫"と呼ばれ男勝りの海賊働きをする女性であり、20歳という当時としては少々婚期を逃している年齢にも関わらず、腰を落ち着ける気配がありませんでした。
作品に登場する一族を簡単に紹介してみたいと思います。
村上武吉(父)
瀬戸内海で最大の勢力を誇る能島村上家の当主。
すでに数々の武功を挙げた武将として圧倒的な存在感を持つ。
村上元吉(兄)
能島村上家の嫡男。
海賊らしくない真面目で勤勉な性格であるが、景にとっては口うるさく説教をしてくる苦手な兄という存在であり、元吉から見るとやんちゃで困った妹という関係です。
村上景親(弟)
臆病でおとなしい性格。
景にとっては忠実な飼い犬のような弟であり、景親にとっては理不尽で恐ろしい姉という関係。
村上吉充(叔父)
因島(いんのしま)村上家の当主。小早川隆景に仕える。
普段は主家の機嫌を取る優男ではあるが、裏ではしたたかな面を見せる。
村上吉継(叔父)
来島(くるしま)村上家の幼い当主・通総を補佐する重鎮。
見た目も性格も豪快な海賊らしい海賊。景にとっては遠慮なく叱りつけてくる叔父であり、少し苦手な存在。
ほかにも乃美宗勝、児玉就英といった毛利家の武将や、景と偶然出会った一向宗徒など登場しますが、どの人物も作者らしく個性豊かに描かれています。
戦国時代の武将といえば立身出世を目指して豪快かつ自由に生きるというイメージがありますが、実際には裏切りや近隣の有力大名の動静をつねに気にしつつ、自家の存続を模索しなければならないというストレスのかかる環境でした。
また武力が物を言う時代だっただけに女性の活躍する場面は殆どなかった時代です。
しかし主人公・村上景は持って生まれた男勝りの気性と腕力を利用し、世継ぎとも無縁であることから海の上で自由奔放に生きる道を選ぶのです。
つまり彼女が行くところ、常にに何かが起こるのです。