レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

村上海賊の娘(三)


ベストセラーとなった「村上海賊の娘」ですが、4巻で構成されている長編にも関わらず作品の中で進行する時間はわずか5ヶ月程度です。

織田信長と石山本願寺の間で行われた石山合戦は10年(1570~1580年)に及ぶ戦いとなりましたが、これは"合戦"というよりも"戦役"と表現した方が正しいかもし知れません。

この戦役の中で1576年に毛利水軍と織田水軍の間での行われた"第一次木津川口の戦い"を取り扱ったのが本作品ということになります。

織田軍に包囲された石山本願寺は兵糧攻めに苦しみますが、信長へ対抗するために本願寺と同盟することを決めた毛利家は、海上から本願寺へ兵糧など物資の搬入を行うことを決定します。

その補給路となった大阪湾の制海権を巡って行われた戦いが木津川口の戦いということになります。

本願寺側が築いた木津砦を巡る攻防、そして木津川口における海戦が本作品の見どころになりますが、どちらも実際に激しい戦いが繰り広げられた戦でした。

とくに前者の戦いでは、信長方の総大将・原田直政(塙直政)が討死するほど激しいものでした。

直政は信長の側近である赤母衣衆の出世頭であり、もし彼がここで討死することがなければ、のちの前田利家のような影響力を持った可能性があります。

作品中で総大将の直政を討ち取ったのは、本願寺方に味方した雑賀孫市という設定もドラマチックです。

本作品の特徴は、長編にも関わらず進行する時間軸が短い分、登場人物同士の会話が細かく繰り広げられ、かつ合戦の模様を詳細に描くためにページを割いている点でしょうか。

そのため登場する武将たちにも細かい設定や性格が与えられており、読者によって応援したくなる武将が異なるかもしれません。

何はともあれ、じっくりとストーリーを味わうことのできる親しみやすい歴史小説であるといえます。