レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

大人のための昭和史入門



本書の冒頭は次のような言葉ではじまります。
本書のタイトルは「大人のための昭和史入門」です。
「大人のための」とあえて銘打ったのは、かつて学校で習ったような「戦争はいけない」「軍部が悪玉だった」「指導者が愚かだった」では片付かない、そのとき日本人が直面した複雑な問題と向かい合おうと考えたからです。

たしかに学校の教科書で主要な事件や出来事を追うことはできますが、肝心な戦争や敗戦の原因については上記のようにほんの数行で触れているだけに過ぎません。

教科書の内容を補足すべき立場の教師にしても、たいていの場合、紋切り型の説明を付け加えるだけではないでしょうか。

私自身、今まで日中戦争、太平洋戦争、そして東京裁判やGHQ占領時代を題材にした本を読んできましたが、本書の序文にあるようにそれぞれの出来事に複雑な事情が潜んでおり、本を読めば読むほど、かつて日本が戦争を始めた理由をとても一言で説明することは不可能だとう実感を抱くようになりました。

本書はこうした当時の日本、そしてそれを取り巻く世界の情勢といった複雑な背景を1つ1つ解きほぐしてゆくための入門書なのです。

第1章では戦後70年という区切りを機会に、座談会という形で戦争を改めて振り返っています。

そこでは日本の戦略が裏目に出てしまった要因、日本と欧米諸国が抱く理念のズレ、戦争から学ぶべき教訓といった内容などが4人の知識人たちによって語られています。

その中には私にとってまったく新しい視点の考えた方もあり、新鮮かつ刺激的な内容で楽しみながら学ぶことができる充実した内容になっています。

続いて2章では学者や作家たちが小論文、またはコラムという形で、およそ時代順にそれぞれのテーマで戦争を振り返っています。

  • リーダーに見る昭和史 日本を滅ぼした「二つの顔」の男たち
  • 満州事変 永田鉄山が仕掛けた下剋上の真実
  • 張作霖爆殺事件 軍閥中国は「イスラム国」状態だった
  • 国際連盟脱退 松岡洋右も陸相も「残留」を望んでいた
  • 五・一五事件 エリート軍人がテロに走るとき
  • 二・二六事件 特高は見た「青年将校」の驕り
  • 日中戦争 蒋介石が準備した泥沼の戦争
  • 三国同盟 「幻の同盟国」ソ連に頼り続けた日本
  • 日米開戦 開戦回避チャンスは二度あった
  • 原爆投下 ヒロシマ・ナガサキこそ戦争犯罪だ
  • ポツダム宣言 日本は「無条件降伏」ではなかった
  • 東京裁判 東京裁判の遺産
  • GHQ占領 日米合作だった戦後改革
  • 人間宣言 天皇・マッカーサー写真の衝撃
  • 日韓歴史認識 和解が今後も進まない三つの理由


本書から見えてくるのは、日本はけっして戦争へ向かって一直線に進んでいったわけではなく、まして特定の人物によって開戦の火蓋が切られたわけでもありません。

それははさまざまな人間の思惑や利害関係、そして時には偶然と思えるような出来事が複雑に絡み合い、幾つもの分岐点を経過して起きた結果であるということです。
そしてそれは戦後の高度経済成長についても言えることです。

歴史を学ぶというのは奥深いものであり、安易な結論はまがい物でしかなく、幾つもの思考を重ねた結果でしたか得られないものなのです。