知の教室
サブタイトルには「教養は最大の武器である」とあり、次の文から始まります。
本書は、がっついたビジネスパーソンや学生を念頭に置いた実践書だ。
最近は、大学でも「すぐに約立つ事柄」すなわち実学を重視する傾向が強まっている。
成果主義、弱肉強食の競争が加速している中で、実務に役立たない教養などに時間を割いても無駄だと考えている人も少なくない。
しかし、それは間違いだ。すぐに役立つような知識は賞味期限が短い。
冒頭に本書の結論が簡潔に述べられています。
それでは次にどのようにして教養を身に付ければよいのか?という疑問が出てきますが、著者の回答は明確です。
それは"読書"をすることです。
私も読書は好きなので自分には教養があるのかなと思いましたが、著者(佐藤優氏)の凄まじい読書量を知り、あっという間に自信を無くします。
著者は月間300冊の本を読み、今まで本の購入のために使ってきた金額は6000万円になるといいます。
1日10冊の本を読む計算になりますが、速読で読むべき本を精査し価値があると感じた本を集中的に読むという方法をとっているようです。
読書の範囲も専門とする神学の本をはじめ、歴史、経済、哲学、さらには小説とジャンルも広範囲に及びます。
これだけで1日が終わってしまいそうですが、著者の本業は作家であり、毎月の原稿の締め切りは80本もあるということですから、もはや人間業とは思えません。
しかし各界の専門家と対談し、様々な視点から情報を分析する佐藤氏の驚くべき知識量は、こうした読書が土台になっていることは間違いなさそうです。
一方で本書は体系的に教養を身につける方法を解説している本ではありません。
著者の読書術、時間のマネジメント方法、読むべき本のタイトルなどが挙げられていますが、過去に行った知識人たちとの対談の模様、かつて発表した記事やレポートもかなりの量が掲載されており、結果的に本書は500ページ近くの分量になっています。
そこには対談や過去に執筆したレポートから教養によって身に付けた知識をどのように活用して対話や情報の分析を行ってゆくのか、さらには問題解決の武器として、必要に迫られた時には闘う方法を含めて実践的に学んでほしいという意図があるようです。
著者はロシア(ソ連)を担当する外交官と活躍していた経歴があり、掲載されているレポートもロシアを扱ったものが登場しますが、作家デビューとなった「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」を知っている読者であれば違和感なく読むことができると思います。
本書は2015年に刊行されていますが、このとき著者は作家活動10年目を迎え、自らの活動を振り返って中間総括を行いたいという意図もあったようであり、そうした視点でも本書を楽しむことができます。
私自身、社会人になって数年間はノウハウ本に熱中していた時期がありましたが、たしかに即座に実践で使えると宣伝されているテクニックには奥行きがなく、何冊も読んでゆくとどれも同じような内容に感じてしまいます。
もちろん中には参考になる本もありますが、食傷気味になって読書本来の楽しみがなくなってしまっては本末転倒です。
私自身これからもジャンルに拘らず、なるべく好奇心を持って幅広く読書を続けたいと思います。