レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

海辺の小さな町



著者の宮城谷昌光氏は中国史や日本史を舞台にした歴史小説家として知られています。

私も多くの作品を読んでいる宮城谷ファンの1人ですが、本書は現代を舞台にした青春小説という著者にしては非常にめずらしい作品です。

期待と不安を持ちながら作品を読み始めましたが、著者らしい文章は健在でありすぐに馴染むことが出来ました。

主人公は東京で生まれ育った青年であり、彼が静岡の小さな港町にある大学へ進学するために親元を離れて引越をする場面から物語は始まります。

進学祝いで父親から買ってもらった一眼レフカメラを携えて静岡へ向かいますが、たまたま下宿先の隣部屋の同級生も趣味で写真をやっていることから意気投合します。

今まで写真に興味はなかったものの、やがて主人公はその奥深い世界へ青春を捧げることになるのです。

私自身、コンパクトタイプのデジカメを何台か買い替えて所持していたものの、今ではそれすら持たずにスマホのカメラ機能で事足りている状態です。

本格的な一眼レフカメラに何となく憧れはあるものの、いつか気が向いたら購入するのも悪くないかなと考えている程度で、ほとんど写真に興味がない部類に入ります。

一方で本作品には写真の専門用語が数多く登場し、素人だった主人公そうした機能や技術に詳しくなってゆく過程が描かれています。

当然のように作品に登場する人物たちも写真好きが多く、それぞれが自分なりのこだわりを持って撮影をしています。

かなり専門的な用語が登場しますが、それもあとがきを読んで納得します。

それは著者自身が昔写真にハマっていた時期があり、コンテストに入選するほどの腕前を持っているということです。

そして本作品は著者が写真好きなことを知っている編集者が、写真をテーマにした作品を執筆することを勧めて誕生したという経緯があるようです。

もちろん写真を軸としながらもストーリーの組み立てはしっかりしており、王道の青春小説としても充分に楽しむことができます。

今まで読んできた歴史小説とは一味違う読了感があり、宮城谷ファンとしてはぜひ抑えておきたい1冊です。