レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

サカナとヤクザ



暴力団を題材にしたノンフィクション作家の第一人者である鈴木智彦氏が、暴力団と漁業との関係を5年間に渡り取材した1冊です。

覚醒剤であれば暴力団が関わっていることは容易に想像がつくものの、殆どの人にとって麻薬そのものを身近に感じる機会はないと思います。

暴力団の関わる漁業とは密漁にほかならず、築地市場の年配者であれば暴力団と市場の蜜月を知らない人はいないそうです。

つまり市場から出荷された魚を食べている多くの一般人が、日常の中で暴力団が密漁に関わった魚を食べている可能性があるのです。

本書は文庫化にあたり2編の書き下ろしが追加されていますが、本章は以下のような構成になっています。

  • 宮城・岩手 ~三陸アワビ密漁団VS海保の頂上作戦~
  • 東京 ~築地市場に潜入労働4ヶ月~
  • 北海道 ~"黒いダイヤ"ナマコ密漁バブル~
  • 千葉 ~暴力の港・銚子の支配者、高寅~
  • 再び北海道 ~東西冷戦に翻弄されたカニの戦後史~
  • 九州・台湾・香港 ~追跡!ウナギ国際密輸シンジゲート~


日本中、さらには海外にわたって暴力団が関わる密漁が広く行われていることは、海上保安庁や警察、全国津々浦々の漁協の人たちにとって公然の秘密どころか常識といってよく、一方で漁業に直接関わっていない消費者である市民たちがまったく知らない事実であったということから、本作品が発表された2018年には大きな反響があったといいます。

そして密漁の規模は私たちの想像をはるかに超えており、流通しているアワビや毛ガニ、ウナギの半分以上が密漁によるものである可能性があるのです。

当たり前ですが、安くて旨い魚を求めるのが消費者である一方、そうした仕組みを維持するために密漁が欠かせない存在であるとは認めたくないものです。

しかし密漁が横行することで裏社会へ資金が供給され、何よりも漁獲制限を無視した密漁がはびこることで海産資源が枯渇する恐れがあります。

著者は潜入ルポといういつものスタイルで取材に臨みますが、全編にわたって密漁と暴力団という単語に溢れいて、本当に密漁が日常的に行われているということを実感します。

もちろん密漁という行為は違法であり厳しく取り締まるべきだと思いますが、はたして密漁を淘汰することが本当に可能なのかと疑問を抱くと同時に密漁が根絶した結果、海産物の価格がどれくらい高騰するのだろうと心配してしまいます。

極端に言えば麻薬にしろ魚にしろ需要があるからこそ、金のために法を破ってまで供給しようとする裏社会の組織が存在する事実を考えると、複雑な心境になります。

しかし将来にわたって、それこそ私たちの子孫がおいしい魚を食べ続けられるように本書によって明らかにされた真実に目を背ける必要があるのです。