レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

世界ケンカ旅



極真空手の創始者・大山倍達が、空手こそが最強であることを証明するべく世界中を飛び回り各国の強敵たちと真剣勝負を繰り広げた自伝です。

私にとって大山倍達といえばマンガ「空手バカ一代」であり、プロレスラーやボクサーなどと勝負を繰り広げる場面はもっとも印象に残っています。

私とは世代は違いますが、空手バカ一代に影響を受けて習い始めた人も多かったようです。

つい懐かしくなり、久しぶりに本棚にある「空手バカ一代」を引っ張り出して全巻読んでしまいました。

その後に本書を手に取ったわけですが、やはりマンガと自伝では大筋のストーリーは同じものの違っている点がありました。

まずマンガ「空手バカ一代」の主人公として描かれる大山倍達はとにかく宮本武蔵を尊敬し、純粋で禁欲的な修行者といったイメージで描かれています。

マンガではこの内容がノンフィクションであると解説されていますが、少年誌に連載されることを意識した原作者・梶原一騎の演出が多分に含まれています。

一方で自伝の中の大山倍達はもう少し世俗的です。

強さを求めるという点では一致しているものの、世界中で空手を効果的にプロモーションするための視覚効果としてビン切りやレンガ割などを工夫する姿が描かれています。

つまり大山は単純な空手バカではなく、のちに世界中に極真空手の支部を1000近く設立した実績から分かる通り、有能なプロデューサーであったことが分かります。

実際、世界中で強敵と対戦するのは空手の世界最強を証明する目的もありましたが、立派な道場を設立するための軍資金を得るという目的も同じくらい重要でした。

このあたりの一面はマンガでは殆ど描かれていなかった部分です。

そしてもう1つは大山倍達はかなりの女性好きだったということであり、世界各国の美女と恋に落ちるシーンが登場します。

日本に妻がいるにも関わらず行きずりの女性とニューヨークで同棲するなど、奥さんがこの自伝を読んだらどう思うのだろうかと勝手に心配してしまうほどです。

マンガでは女性の誘惑を振り切るために、武蔵とお通のようなプラトニックな関係が例に出されていましたが、実際はほぼ真逆であり、強敵との対決に勝利した副賞として美女をゲットするという衝撃的なシーンが登場したりします。

先ほど実際の大山倍達は世俗的だったと書きましたが、言い方を変えれば現実的であったといえます。

現実問題としてバックパッカーのように世界を放浪しながら各国の有名な格闘家と対戦要求をしてもまず相手にされませんし、空手を広めるために軍資金が必要なのも当然です。

異国の地での孤独を癒やすために異性に惹かれてしまうのも人間らしい一面であるといえ、少年の頃に読んでいたら幻滅してしまったであろう内容でも、大人になった今なら楽しく読めるのです。