江戸五人男
子母澤寛が昭和12年に講談社の雑誌「キング」に連載した時代小説です。
普段は歴史小説は読んでも時代小説はあまり読みませんが、子母澤寛の作品が好きなので手に取ってみました。
タイトルの五人男として登場するのは次の5人です。
- 500石の旗本(いわゆる直参)の此村大吉
- 小間物屋とは仮の姿で正体は名だたる盗賊・天竺小僧として知られている半次郎
- 釣り鐘盗っ人としてこれまた有名な鼠山の吉五郎
- 盗っ人から鬼より怖いと噂される岡っ引・駒形の弥三郎
- 元旗本で今は由緒ある本勝寺の住職であり怪力の宗円
さらにここに常磐津の師匠で此村の恋人である文字栄、馬喰町・伊豆屋の娘お雛、敵役などが加わり登場人物は多彩です。
どれも一癖あるキャラクターですが、本作品のように盗賊が活躍する作品を歌舞伎や講談では"白浪物(しらなみもの)"と呼んだようです。
ストーリーのテンポは良く、次から次へと場面が切り替わる描写は読者を夢中にさせ、一気に最後まで読ませてしまうような魅力があります。
物語が膨らみすぎて回収されない伏線も多少ありますが、こうした作品に必要なのは勢いとテンポであり、個人的にはあまり気になりませんでした。
本作品を読んでいると講談を聴いてるような気分になり、子母澤寛がかなりの講談好きだったのではないかと推測してしまいます。
子母澤寛の祖父は御家人であり、幕末には彰義隊にも加わった経験があったといいます。
作者はこの祖父からの影響を強く受けているためか、今の作家には表現できない江戸時代の雰囲気を作品中に漂わせる力があるような気がします。
時代小説好きであれば古典的な作品として一度は読んでみることをおすすめします。