ひきこもりの真実
"ひきこもり"が社会問題になって久しいですが、その実体を知っている人は少ないのではないでしょうか。
例えばテレビなどに取り上げられる典型的なパターンとして、若い男性が部屋に引きこもり外へ一歩も出ないでゲームばかりしているイメージがあります。
しかしそれはステレオタイプのひきこもりイメージであり、中高年の引きこもり(ひきもりの高齢化)が多く、調査によっては女性のひきもり率の方が多いというデータも出ているのです。
さらに”ひきこもり=部屋に閉じこもっている"という定義ではなく、9割の人は趣味の用事やコンビニなどには出かけるといいます。
ひきもりの定義とは、生きづらさを抱え、生きる希望を見いだせず、1日1日をやっと過ごしていると「自認」している人であり、現実には家事手伝い、主婦といった人たちがひきもりであることも珍しくありません。
つまりひきもりの原因は多様であり、それぞれ固有の複雑な事情が絡み合っているのです。
著者の林恭子氏は、高校2年生で不登校になり、それから30代になるまで断続的にひきこもった経験があり、現在は一般社団法人ひきこもりUX会議の代表を務めています。
本書では著者自身のひきもりの経験を細かく紹介していますが、転勤を繰り返す家庭事情の中で教師や親との間に距離が開き、ひどい肩こりと頭痛という身体的症状が出たのがひきもりの始まりだったようです。
継続的な治療を受けながらも結局は高校や大学を中退し、アルバイトをしていた時期もありましたが、それも辞めざるを得ない状態となったり、改善や悪化を繰り返しながら20年もの長い間に渡って苦しんできたことがよく分かります。
また自身の妹へ対しても著者自身がインタビューという形式で、ひきもりの当事者を持つ家族からの目線を紹介する部分もひきもりを理解する手助けになります。
さらにひきこもり当事者にとって家族にどのようにしてほしいのかといった点にも触れています。
とりわけひきこもり当事者の親であれば、叱咤激励や説得などさまざまな手を使ってひきこもりから救い出そうとするはずです。
しかし"ひきこもり"とは本人にとって命を守るための避難行為であり、良かれと思った周りの人の言動が、彼らを無理やりシェルターから追い出すような結果になる危険性があるのです。
著者はひきこもり状態を「ガソリンの入っていない車のようなもの」と例えていますが、当事者にとってネガティブな出来事や声掛けがあると、せっかく溜まったエネルギーが一気にゼロになってしまうと言います。
本書はひきこもり当事者、そして当事者の家族をはじめとした周囲の人両方に有益であるばかりでなく、ひきもりと関わっていない人にとっても当事者たちの理解を深める手助けになってくれます。
少なくとも本書を読むことで、ひきこもり当事者たちを安易に「怠け者」、「甘えている」と批判することが、いかに無知で心ない言葉なのかを知ることができます。