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ルポ プーチンの破滅戦争



本の良いところは、専門家や当事者によって物事を体系的に知ることができるという点です。

つまりテレビの報道やネット記事を散発的に見るだけでは身に付かない知識や物の考え方を与えてくれるのです。

ロシアとウクライナの全面戦争が開始して1年以上が経過し、連日ニュースでその模様が報道されていますが、そもそもロシアとウクライナがどういった経緯て戦争へ突入したのかといった本質的な部分を説明できる人は少ないと思います。

たとえば領土的野心を持つプーチンの独裁国家であるロシアが、突如ウクライナへ侵略戦争を仕掛けたという見方だけでは不充分ということです。

今回の戦争は2014年に起こったロシアによるクリミア半島の編入、及び同年に起きた東部のドネツク、ルハンブルク両州がロシアが支援する親露派勢力によって占領されたことから端を発しています。

つまりウクライナとロシアは約10年に渡って武力衝突を続けていることになりますが、両国の関係を深掘りしていゆくと9世紀にまで遡ることができ、今でもウクライナにはロシア語を理解できる国民が多く存在するほどです。

本書は毎日新聞社の特派員の経験があり、ロシア、ウクライナの情勢に精通している真野森作氏がウクライナを現地取材した様子をまとめたルポです。

著者は両国の関係が悪化し、危機が高まりつつあるロシアの本格的な侵攻前からウクライナ入りし、一時的に国外退避したものの2ヶ月後に現地での取材を再開しました。

キーウ近郊の街でロシア軍が民間人へ対して虐殺を行ったとされるブチャを訪れての取材、また孤立したアゾフスタリ製鉄所に立て籠もりロシア軍と交戦を続けたことで有名になったマリウポリからの避難民を取材したりと、精力的な取材活動を行ったことが本書から伺えます。

ロシアの侵攻が始まるまで大部分のウクライナ国民が平和な暮らしを続け、危機が高まっている中でも首都キーウの住民たちは中心街の繁華街で陽気にワインを飲み交わしたり、ベンチで語り合うカップルがいたりして、その風景は日本のそれと大差はありませんでした。

しかしロシア軍の侵攻以降、多くのウクライナ国民が家族や財産を失い、戦争という現実に向き合うことになります。

ウクライナ国民の8割以上がロシアの侵攻へ対する抵抗を支持し、それはそのままゼレンスキー大統領の支持に直結しています。

一方で政治的な関心がなく、とにかく戦争から逃れることを望む人々、中にはロシアを支持する人々も一定数いることも事実です。

ある日突然、北海道や九州などに隣国の軍隊が突然攻め込んできて、首都である東京にもミサイルが飛来してくるような状況を、我々日本人が具体的なイメージとして捉えられることは難しいと思います。

しかし本書を通じてウクライナ国民のインタビューを読むことで、ある日突然、平和な日常生活に終わりが訪れるという状況を知ることができます。

本書は今年の1月に出版されていますが、その後も最近ではワグネル代表のプリゴジンの反乱そして撤回といったニュースが流れているように、情勢は刻一刻と変わっています。

ネットの普及とともに芸能ニュースなどでマスコミが叩かれる場面も多くなってきましたが、危険な戦場となった現地からニュースを発信し続けているのもまたマスコミです。

知らぬが仏」という日本のことわざがありますが、確かにウクライナで起きている戦争は悲惨な出来事であり、それを知ることで心の平静が失われることもあるでしょう。

一方で、ソクラテスは「唯一の善は知識であり、唯一の悪は無知である」と言っているように、遠い異国の地で行われている戦争の現状を知り、それを自分なりにどう考え今後の人生に活かしてゆくのかはとても大切なことのように思えるのです。