レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

旅のつばくろ



沢木耕太郎氏がJR東日本の車内誌「トランヴェール」で連載している旅に関するエッセイを1冊の本にまとめたものです。

「トランヴェール」に連載されていたことはあとがきで知ったのですが、たしかにエッセイで紹介されているのはJR東日本の管轄区域である東北から関東甲信越地方、北陸といった地域がメインになっています。

そこで自分と交流があった人、あるいは作品に思いれのある作家や芸術家のゆかりの地などを訪れた経験などが描かれています。

本書を読み始めてまず驚いたのは、"普通の旅"のエッセイだという点です。

"普通の旅"とは文字どおり目的地を決めてあらかじめチケットを購入し、旅先の宿泊施設で寝泊まりすることを指しています。

私にとっては著者のイメージは「深夜特急」が強すぎて、"沢木耕太郎"と"旅"といえば、バックパッカーたちのバイブルと言われた同書に書かれているような"普通でない旅"の方がしっくりと来るのです。

しかし冷静に考えれば「深夜特急」は1947年生まれの著者が26歳の頃に経験した旅であり、70歳を超えて同じようなスタイルで旅を続けることなどあり得ないとすぐに納得したりもします。

長く作家活動を続けてきた著者だけに、その交流範囲は広く鬼籍に入ってしまった人たちも少なくありません。

旅先でそうした人たちとの思い出を回想するシーンなどは若い作家では書けない味わいがあり、しっとりと読めます。
また旅先での風景、グルメ、市井の人たちの交流などを描いた場面では旅情を誘います。

「深夜特急」は読者の好奇心を刺激するページをめくる手が止まらなくなるような作品でしたが、本書は落ち着いた気分でゆっくりとページをめくりながら読むのが相応しい1冊です。