レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

決定版 この国のけじめ


本書は藤原正彦氏の新聞や雑誌に発表したエッセイをまとめたものです。

元々、単行本として発刊されていた同書を文庫化するにあたり、幾つかのエッセイを追加して"決定版"として出版したようです。

本書では掲載されたエッセイを時系列で掲載したものではなく、いくつかのテーマに分類しています。

用意されているテーマは以下の通りです。

  • 藤原家三代
  • 祖国愛
  • 甦れ、読み書き算盤
  • 学びのヒント
  • 私の作家批評
  • この国のけじめ
  • 日々の風景

この中でも、"祖国愛、"この国のけじめ"に掲載されているエッセイは、ベストセラーとなった「国家の品格」の骨格となっているエッセイです。

戦後、欧米に追従した市場原理主義が波及した結果、日本に古来からある世界に誇れる文化、教養、情緒などが消えつつある現状に警告を鳴らしています。

日本は物質的には豊かになりましたが、著者はそれを「たかが経済」であると主張しています。

日本固有の国柄を無視して国や経済界が自由競争社会を促進した結果、弱肉強食の世界が訪れ、たとえば日本人が本来持っていた「惻隠の情」などが失われ、経済と引き換えにもっと大きなものを失った日本人は不幸になってしまったというものです。

"甦れ、読み書き算盤"、"学びのヒント"では、本ブログでも紹介した「祖国とは国語」とほぼ同じ主張であり、幼児期、小学校から導入されている英語教育を真っ向から批判しています。

著は数学者として大学で教鞭をとっており、さらにアメリカ、イギリスへの留学経験があるだけに説得力があります。

民間団体は学校や文部科学省へ対して、現場で即戦力となる若者を育成する教育改革を求めますが、著者は一見何の役にも立ちそうにない、文学、歴史、科学、芸術などの教養こそがもっとも重要であり、学生時代に例えば投資や起業などの"社会勉強は不要"であると断言し、人間としてのバランス感覚に優れた幹の太い人材を育てる重要性を訴えています。

"私の作家批評"は文字通り著者のお気に入り作家を紹介するエッセイであり、"日々の風景"では日常の出来事を、"藤原家三代"では自ら生い立ち、父や母との思い出を語るもっとも一般的なエッセイが掲載されています。

読書は楽しませてくれるユーモアから、日本の行く末を真剣に論じた自らの大局観を披露するエッセイまで内容は多様であり、藤原正彦ワールドを存分に堪能できる1冊になっています。