祖国とは国語
藤原正彦氏のエッセー集です。
200ページ余りの文庫本にも関わらず、まったく毛色の異なった3部構成のエッセーで贅沢に楽しめる内容になっています。
それぞれ簡単にレビューしてみたいと思います。
国語教育絶対論
数学者である著者が、義務教育における国語の重要性を説いたエッセーです。
日本が世界で求心力を失いつつある最大の原因が、"国語の衰退"にあるとし、国語による自国文化、伝統、そしてそれによって培われる情緒こそが国力の源泉になると主張しています。
著者の過去の作品にも「祖国愛」というキワードは何度も登場しますが、数学者として世界を巡った経験、そして英語が堪能な著者が主張するからこそ、その内容には説得力があります。
この内容を深く掘り下げた作品に、大ベストセラーとなった「国家の品格」がありますので、興味のある方はそちらも併せて読むことをお薦めします。
いじわるにも程がある
本章では一転して軽妙なエッセーに変わります。
著者にはアメリカやイギリスに留学した経験からアメリカのジョーク、そしてイギリスのユーモアを兼ね備えたセンスがあります。
新聞や雑誌に掲載された何気ない家庭のエピソード、父親との思い出など、素顔の著者が垣間見れる気軽に読めるエッセーです。
満州再訪記
個人的に本書で一番印象に残った章です。
著者が高齢となった母親、妻子を伴って満州の新京(現・長春)を尋ねた旅行記です。
満州から逃避行の実体験を描いた戦後間もないベストセラー「流れる星は生きている」は、著者の母親・藤原てい氏の作品であり、戦後を代表する名著です。
命がけの引き上げを決行する母親の腕に抱かれていた幼い子どもが著者であり、母親に代わって息子が記した「流れる星は生きている」のエピローグです。
本章を読む前に是非「流れる星は生きている」を読むことをお薦めします。
私は著者の父親・新田次郎氏のファンですが、著者の本職は数学者であることもあり、父の影響で本を執筆している程度の認識しかありませんでした。
本書を読むと間違いなくその文才を父と、何よりも精神を継承していることを感じます。