レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

心の砂時計

心の砂時計 (文芸春秋)

遠藤周作氏の後期のエッセー集です。

遠藤氏は小説のみならず、多くのエッセーを執筆したことで知られていますが、柿生の狐狸庵から再び都内へ移り住んだ時期の作品です。

60代半ば頃の執筆ですが、ひょうきんな狐狸庵山人の一面を覗かせる軽快な筆運びで書かれています。

人間が歳を取ると、世間へ対して悲観的な気持ちになるのは今も昔も変わりません。

それを単なる愚痴として書いてしまうと若い世代に敬遠されてしまいますが、温かい目線とユーモアを交えて書かれる内容には、世代を超えて多くの人に受け入れられるのではないでしょうか。

本書が書かれたのは1990年代初頭ですが、当時、そして現代にも共通する社会問題、単なるグルメの話題、著者の好きな超現象の話題など、その内容は心の赴くまままに多岐に渡ります。

中には池波正太郎を気取ったグルメの話題まであり、そのエピソードの幅広さは読者を飽きさせません。

全体的に晩年の頃に書かれたエッセーと比べて、深刻な題材の登場頻度は少ない印象を受けました。

一心不乱に読書するよりは、電車に揺られながら、トイレで、昼寝のお供にと日常のちょっとした時間に1話、2話ずつ読み進めるのに最適な1冊です。