レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

母親ウエスタン



本ブログでは2作品目となる原田ひ香氏の小説です。

本書を読み始めると、すぐに2つのストーリーが同時並行で進んでいることに気付きます。

それも一時的な転換ではなく、頻繁にストーリーが切り替わりるため最初はすこし戸惑いますが、かなり規則的に一定のペースで切り替わるためすぐに慣れることができます。

加えてこの2つの物語は同時並行に進んでるものではなく、過去と現在を行き来していることも分かってきます。

過去の物語での主人公は広美という不思議な女性です。

彼女は父子家庭となった家にふらりと現れて、子どもたちの世話を献身的にこなします。

そしてまたふらりと父親や子どもたちの目の前から姿を消してゆくのです。

父子家庭といっても子どもの年齢や人数、また家庭事情は異なっていますが、いずれも子どもたちが死別、または家を出ていった母親を恋しがっているという点は共通しています。

冒頭に書いた通り、彼女の作品は本書でまだ2冊目のため、天使が人間の姿を借りて人助けをするというファンタジーな作品なのかもしれないと思いましたが、作品中で描かれる各家庭の事情、そして広美とその時々で訪れている家族たちとの会話の描写はリアリティを重視していることが分かり、現代社会を鋭く捉えようとしている作品であることが分かってきます。

一方で現代で進行してゆくストーリーの方では、スナックのママとなった広美、そして彼女の正体を突き止めようとする大学生の悠理が登場しますが、主人公は悠理と交際している女子大学生であるあおいの視点から描かれています。

悠理がかつて広美によって育てられたという過去があることは推測できますが、あえて広美とはまったく縁のないあおいの視点を用いることによって、読書にとって最大の関心事、つまり広美という謎の女性の正体や目的、さらに知られざる過去が明らかなになってゆく過程が少しずつ自然に描かれています。

広美は特別な美貌の持ち主ではなく、天真爛漫な性格でもありませんし、まして力持ちでも大富豪でもありません。

しかし彼女には子どもたちの気持ちを理解し、寄り添うことのできる能力があり、彼らに危険が迫れば身を挺して守り抜こうとする強い意志があります。

つまり彼女の強さは母親が本来持っている強さであり、それを他人の子どもへ発揮できるという不思議な能力を持っており、綿密な作品の構成とともに読者をストーリーに釘付けにする魅力を持った作品になっています。