もうすぐブログで紹介してきた本も1000冊になろうとしています。
ジャンルを問わず気の向くままに読書しています。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?



アメリカの代表的なSF作家であるフィリップ・K・ディック氏の代表作です。

本書は根強いファンのいることで有名な1982年公開の映画「ブレードランナー」の原案となった作品としても有名です。

今から50年以上前に発表されたSF小説の中では古典の部類に入りますが、この時代の作品は未来を描いたものでありながら、どこか懐かしさを感じさせてくれます。

当時はインターネットの影も形もない時代であり、作品中では自動車が飛行し、人類は火星などに移住し、レーザーガンが武器として使われている一方で、未だに雑誌が紙媒体のままであったり、TVやラジオがメディアとして主流だったりします。

こうした現在より進んだテクノロジーと時代遅れのテクノロジーが混在するところがレトロなSF的世界観であり、個人的には嫌いではありません。

この作品で特筆すべきは、本物の人間や動物と見分けがつかないレベルで精巧に作られたアンドロイドの存在です。

つまり現代よりはるかにAIとロボット工学が発達した世界なのです。

一方でアンドロイドには人間同様の人権は認められておらず、あくまで人間の労働力として使役される"便利な道具"に過ぎません。

その結果として高度に発達したアンドロイドが主人である人間に反抗して逃亡する事件が発生するようになります。

こうしたアンドロイドたちを賞金首として狙うのがバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)である主人公・リック・デッカードです。

当然のように逃亡した精巧なアンドロイドは人間社会へ紛れ込み容易に見抜くことはできませんが、そのための唯一の方法が精密な検査(フォークト=カンプフ検査法)なのです。

腕利きであるリック・デッカードはこの検査法にも精通しており、アンドロイドと対決する場面などはアメリカらしいスパイ小説の要素もふんだんに盛り込まれており、読者を夢中にさせてくれます。

作品中の高度に発達したアンドロイドには確実に""や"感情"のようなものが芽生え始めており、リックがアンドロイドへ対して抱く感情もしだいに変化が見られるようになります。

詳しくは作品を読んでの楽しみですが、やはり読書として意識せざるを得ないのは日進月歩で進化を続ける"AI"の存在です。

ここ数年でAIの技術は一気に進化し、これがアメリカの好景気を支える大きな産業へ成長しつつあります。

実際にアメリカでは、今まで人間が担ってきた仕事をAIが肩代わりするケースが増えつつあります。

一方でAIシステムの持つリスクを抑制するための法規制も整備され始め、AIの戦争利用、AIが人種、政治的意見、宗教的信条による差別を助長する危険性が指摘されています。

加えて作品は核戦争により荒廃した地球が舞台になっており、決して明るい未来ではありませんが、現在ウクライナやパレスチナで起きている戦争を考えると荒唐無稽な未来を描いたSF作品と笑い飛ばすことは出来ないはずです。

未来を描きつつも人間社会が抱える根本的な問題を浮き彫りにするのが名作SF小説の必須条件であり、そうした意味では間違いなく本作品はそれに当てはまるのです。