もうすぐブログで紹介してきた本も1000冊になろうとしています。
ジャンルを問わず気の向くままに読書しています。

成瀬は天下を取りにいく



本屋大賞2024年をはじめ数々の賞を受賞した話題の作品です。

娘が読みたいということで購入した本ですが、私も読んでみることにしました。

主人公は滋賀県大津市に住む成瀬あかりという女子中学生です。

彼女は勉強も運動も得意であり、普通であれば間違いなくクラスの人気者となるはずですが、他人を寄せ付けない雰囲気と性格からクラスでは孤立している存在です。

しかし当の本人は孤立していてもまったく平気で、わが道をゆく、つまり自分が決めたことを実行してゆく強い意志と行動力があります。

随分変わった主人公だなと思いながら読み進めていきますが、次第に彼女の言動、そこから生まれる周囲の反応に魅せられゆくことに気付きます。

本書は6つの物語から構成されてゆき、その中で主人公の成瀬は中学3年生から高校3年生へと成長してゆきます。
加えて物語の舞台はいずれも大津市を中心に展開されてゆき、田舎でも大都会でもない地方都市を舞台としています。

著者の宮島未奈氏自身が大津市在住ということを読み終わってから知り、作品中で描かれる街の細かい風景や雰囲気に納得です。

作品を読み終わってから、なぜ成瀬が魅力的な存在に映るのだろうと考えてみると、おおよそ3点ほど理由が思いつきました。

まず最初に成瀬が同調圧力に対してまったく無頓着で、クラスの中で孤立していても平気で毅然としている点です。
周りの言動に合わせる、顔色を伺うということに馴れてしまった多くの読者にとって、一介の女子学生である成瀬の姿にある種の憧れを抱いてしまうのではないでしょうか。

次に主人公の自信に溢れた行動力と強い信念が挙げられます。
たとえば自分にとって大事だと思ってはじめた行動でも、周りから理解されずに奇異な目で見られたりすると自信が揺らぎためらってしまうものです。
しかし成瀬は周りの視線など気にせず、自分で決めたことにまっすぐ突き進む強さを持っています。

最後に主人公の持つ不器用さが逆に魅力となる点です。
勉強も運動も得意な成瀬ですが、他人とのコミュニケーションは決して得意ではありません。
それでも心を開いた友だちや自分に興味を抱いてくれた周囲の人たちには、不器用なりに自分を分かってもらおうという努力や思いやりを怠りません。
さらに付け加えるならば肝心な部分が抜けていたりして、そうした人間味が読者たちの共感を呼ぶのではないでしょうか。

本作品は1日で充分に読み終えることのできる分量で、ストーリーもテンポよく進むので長編小説を読むのが苦手な人でも楽しむことができると思います。

ちなみに娘は続編の「成瀬は信じた道をいく」を読み始めており、読み終わったらいずれ私も手にとってみたいと思います。