レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ルポ路上生活



東京オリンピックの開会式があった2021年7月23日から約2ヶ月に及ぶ路上生活体験記を綴った1冊です。

著者の國友公司氏は1992年生まれであり、当時29歳という若さで路上生活を試みる今どき珍しい気骨のあるルポライターのようです。

路上生活者、つまりホームレスを題材にした本は著者のように実際に体験したものを含めてかなりの数が出版されています。

一方で時代とともに生活スタイルや社会情勢は変わってゆき、それはホームレスであっても避けられません。
そうした意味で本書は最新のホームレス事情を知る上で貴重な作品であるといえます。

私自身、頻繁に都内へ行くことが多いためホームレスの人を見かけることはよくあります。

しかしジロジロ見るのも失礼であり、じっくりと彼らの様子を観察する時間もないことから、彼らの生活を詳しく知っているわけではありません。

著者自身も「ホームレスは一体、どんな生活をしているのか?」という素朴な疑問から自身で路上生活を始めてみたといいます。

また場所が変わればホームレスたちの生活様式が変わることが予想されるため、著者は新宿上野、そして荒川の河川敷というおもに3箇所でホームレスを体験します。

ホームレスというと貧困の最前線で飢えと隣合わせの生活というイメージを抱く人がいると思いますが、すくなくとも東京でホームレスを続ける限りその心配はまったくないようです。

それはさまざまな宗教団体やNPOが各地で炊き出しを行っており、著者は都内各所の炊き出しスケジュールに詳しいホームレスとともに1日7食の炊き出しツアーを敢行し、満腹で苦しむといった体験をします。

ちなみに炊き出しには多くの人たちが並びますが、その8割くらいはホームレスではなく、生活保護受給者たちであるといいます。

さらに著者が予想していたことであり、私も実際に目撃して大変そうだなと思ったのが冬の路上生活です。
都内とはいえ真冬には気温が氷点下にまで下がることもあり、夜は凍えて寝れないのではないかと心配してしまいますが、やはりさまざな団体から支給される防寒着や寝袋で案外快適に過ごせるようです。

しかも毎年支給されるためホームレスたちは冬シーズンが終わると寝袋や防寒着は荷物になるので、捨ててしまうといいます。

それよりもホームレスたちにとって夏の暑さの方がキツイといいます。

たしかに熱が放出され続けるアスファルトの上で寝る夜は、裸になったとしてもその暑さから逃れる術がありません。

著者は7000円を所持してホームレスになりますが、炊き出や配給によって食料には余裕があり、新宿区などが無料シャワーを提供していることから、お金に困ることは少なかったようです。

転売屋の元に行われる買い出しのバイト、パチンコの抽選の列に並ぶバイト、さらに宗教の研修へ行くと現金が支給されるなど、それなりに現金収入を得る方法があるようです。

基本的に都心に住むホームレスは寝るスペースしかありませんが、小屋を建てて住む河川敷のホームレスはスペースに余裕があるため、空き缶拾いによって現金収入を得ることもできます。

つまりホームレスたちは食の心配がないことに加えて、酒やタバコ、さらにはギャンブルを楽しむことも可能なのです。

著者と交流のあったホームレスたちの多くは、社会復帰や生活保護を受給してアパートに住む生活を望まない人が多いようですが、だからといって彼らが社会生活と無縁であるわけではありません。

ホームレスの間にも序列があり、そして多くのルールがあります。

健康を害したり、暴力や窃盗といった犯罪に巻き込まれる危険性も高く、けっして安全で気ままに暮らせる身分でないことだけは確かです。

私たちはとかくホームレスたちを違う世界に住んでいる人たちと思いがちです。

それだけにホームレスを実際に体験した著者だからこそ分かる、ホームレス側からの見る社会への視点、そして彼らのリアルな生活は新鮮であり、多くの気付きを与えてくれるルポタージュです。