レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

そのマンション、終の住処でいいですか?


昭和40年代に建てられた都内にある赤坂ニューテラスメタボマンション

有名建築家の故・小宮山吾郎による当時流行したメタボリズムの象徴的な建造物であるものの、老朽化という問題に直面しています。

外見はさいころ状の「細胞」を積み上げたようなデザインであり、最上階だけ2つの細胞が円錐形で並んで前方へ突き出ていることから、世間では「おっぱいマンション」と呼ばれていました。

この設定を読み、すぐに実在した黒川紀章デザインによる銀座の中銀カプセルタワービルをモデルにたマンションを思い浮かべた人も多いはずです。

本書はこの「おっぱいマンション」を舞台の中心として、さまざまな人たちの悲喜こもごもを描いた作品です。

まずは生前から父親(小宮山吾郎)とは距離を置いてきた長女の小宮山みどり

かつて小宮山吾郎の右腕であり、今はデザイン事務所の代表を引き継いでいる岸田恭三

教師を定年退職し、郊外から中古マンション(おっぱいマンション)を購入し引っ越してきた市瀬清夫妻。

40年間このマンションに住み続けている元女優の奥村宗子

さらには彼らの家族や知人など登場しますが、それぞれが複雑な事情や過去を持っています。

このおっぱいマンションの老朽化による建て替えや修繕といった問題はマスコミによって全国的に報道されるようになり、最終的にはこの登場人物たちがマンションの将来を話し合う住民会議で勢揃いすることになります。

著者の原田ひ香氏は脚本家を経験していることもあり、この「おっぱいマンション」という巨大な舞台装置を中心とした人間ドラマの展開は、小説でありながらも舞台やドラマのような構成を連想させ、読者を一気に物語の中へ引き込むような魅力があります。

私自身もマンションに住んでいますが、個々の部屋は住人たちの個人所有であるものの、敷地や建物全体は共有物であり、老朽化などが進んだ場合、さまざまな人たちの事情や思惑が入り乱れることになるのだろうと将来の自分自身のことも何となく重ね合わせながら読んだこともあり、他人事ではないなとは思いつつも全体としては楽しく読むことができました。