楽に生きるのも、楽じゃない
国民的長寿番組「笑点」の司会でお馴染みの春風亭昇太師匠のエッセイです。
「笑点」でお馴染みとは言いつつ、私自身はその時間帯にTVを見ることは滅多にありません。
一方でたまに行く寄席で2回ほど著者の高座を聴いたことがありますが、2回ともその日1番の笑いは昇太師匠の落語だったことはよく覚えており、それが本書を手に取るきっかけにもなりました。
ただし本書は著者が「笑点」のメンバーとなる前の1997年に発表されたエッセイであり、それが2001年に文庫され、さらに出版社を文藝春秋へ変えて改めて2017年に出版された1冊です。
そのため、"あとがき"が3つも収録されている面白い作りになっています。
落語家という点では志ん生、米朝、談志辺りの著書を過去にブログで紹介したことがありますが、その中では一番落語へ言及している箇所の少ない1冊になります。
何気ない日々の出来事、大好きなお酒のこと、同期で仲の良い立川志の輔師匠と定期的に出かける海外旅行のこと、さらには自分で作詞した歌を載せたりと、かなり自由なエッセイとなっています。
読み進めてゆくと、たしかに談志師匠のように真面目に落語論や演芸論を語るのは似合わない人だなというのが感想です。
本書の中で唯一落語論について語っているのは、付録のような形で収められている立川談春師匠との対談内容のみです。
私自身、好きな落語家が何人かいますが、落語を"上手い"とか"名人"で評価するほどには詳しくありません。
良い意味でも悪い意味でも落語の本質は大衆演芸であり、個人的にはその場の観客を楽しませることが全てだと思っています。
そうした意味では著者は間違いなく一流の落語家であり、私にとって著者が名人に値するかどうかはどうでもよい問題なのです。
本書が最初に発表されたのは著者が39歳の時ですが、現在は60歳中盤となりベテランの域に入ろうとしています。
それでも落語会の重鎮のような威厳を感じさせないのは、"芸が軽い"からではなく、彼の個性や芸風がそうさせるのであり、それは立派な芸人としての魅力であることが本書からも伝わってくるのです。