その復讐、お預かりします
本ブログでおなじみになりつつある原田ひ香氏の作品です。
本作品はセレブたちを相手に復讐を代行するための会社「成海事務所」を構える成海慶介、そして秘書の神戸美菜代とそこを訪れる依頼者たちを中心に展開してゆきます。
原田氏といえば過去に事故物件に住むことでロンダリング(洗浄)するという、架空の仕事にまつわる作品を発表していますが、それに比べて「復讐屋」はかなりストレートな構想だなと感じました。
ただし作品を読み進めてゆくと、すぐに原田氏らしいカラーが出てきます。
プロの「復讐屋」というと物騒なイメージを持ちますが、成海のモットーは「復讐するは我にあり」という聖書に登場する言葉です。
知っている人は多いと思いますが、もちろん復讐の権利を主張する言葉ではなく、これは神自身の言葉であり、"復讐は神へ委ねよ"という意味になります。
復讐のためには手付金100万円、さらに必要経費+成功報酬100万という、セレブ相手の商売だけに決して安くはありませんが、依頼を受けた成海は基本的に何もせずに、復讐相手が勝手に自滅するのを待つというスタイルなのです。
言わば人の恨みを買うような所業をしている人は、いずれ天罰が下るということです。
本書に登場する復讐の理由をネタバレしない程度に紹介すると次のような感じになります。
- 婚約を断った男性への復讐
- 仕事上のライバルへの復讐
- 相続問題の中で生じた復讐
実際の復讐を依頼するまでの過程はもうすこし複雑ですが、理由自体は特別なものではなく、誰にでも起こり得るものばかりであることが分かります。
そしてもう1つ大事なのは、復讐は一方的な見方であって、復讐される側にもそれ相応の事情があるケースもあるという点です。
幸運にも私自身には復讐したいほどの相手はいませんが、「人を呪わば穴二つ」という言葉がある通り、よほどの龍がない限り、復讐を思いつくべきではありません。
ちなみに本書の主人公は成瀬よりも秘書である美菜代であり、基本的には彼女の視点からストーリーが展開してゆきます。
それは美菜代自身が交際相手に裏切りを受けた過去を持っており、その復讐の資金稼ぎをするために成瀬の秘書になっているという経歴を持つからであり、彼女の目に依頼者たちがどう映り変化してゆくのかも本作品の楽しみの1つです。
"復讐"をテーマにしているだけに物語は多少ドロドロすることがありますが、作品全体の印象は暗いというよりむしろ明るく、読了後は前向きになれる作品ではないでしょうか。
