日本沈没 上
今年はハヤカワ文庫をはじめとした海外SF作品を読んできましたが、日本人SF作家による作品も読んでみようと本書を手にとってみました。
本書「日本沈没」は小松左京氏が1973年に発表した作品であり、発売から50年を経て累積約500万部を記録している日本SFの金字塔といえる1冊です。
何度か映画やTVドラマ化されていることもあり、タイトルだけでも知っている人は多いと思いますが、私もその1人でした。
物語は日本近郊の海底で異変が起きており、それを深海潜水艇で調査するところから始まります。
序盤は深海潜水艇パイロットの小野寺、海洋地質学者の幸長助教授、地球物理学の田所博士といった登場人物を中心に、日本に迫りつつある深刻な異変の正体が少しずつ明らかになってゆきます。
そして海底に起きている異変はやがて日本各地で立て続けに発生する地震、噴火という災害へと発展してゆきます。
もちろん大規模な災害が続く状況の中で政府も本格的に原因調査を進めてゆくことになります。
何と言っても本作品の特徴は、リアリティと迫力のある描写といえます。
日本列島が沈没するという出来事が突拍子のない非現実的な出来事に思えますが、著者は作品を執筆するにあたり専門家へ相談して科学的考証と理論構築を行っています。
それは太平洋プレート下のマントル層における対流層急変により列島が海中へ引き込まれるというもので、作品中でも何度となく専門的な解説がされています。
さらに未曾有の災害、そして危機が訪れた際の政治的な動きについても首相をはじめとした政府の働きかけを外交含めて詳細に描写しており、その緊張や切迫する状況が充分に伝わってきます。
そして近代都市を直下型地震を襲った際の惨劇についても具体的かつ迫力ある描写が行われており、かつて神戸を襲った阪神淡路大震災の光景が頭によぎってしまいますが、この作品が1970年代に書かれた作品であり、まるで未来でその光景を見てきたかのような著者の想像力に驚かされます。
2025年時点で読んでみても、まったく色褪せることなく楽しめる作品であり、まさしく名作に相応しい1冊です。
サスペンス的な要素も多く取り入れたれており、SFという分野に馴染みがない読者でも充分に満足できる作品だと思います。
