レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

日本沈没 下


累計500万部のベストセラー、そして日本のSFを代表する「日本沈没」の下巻レビューです。

日本近郊の海底異変、やがて日本各地で次々と起きる地震と噴火という現象は人びとを不安に陥れますが、決定的となったのが200万人以上の犠牲者を出した第二次関東大震災です。

ただしこの近代的過密都市を襲った未曾有の大災害さえも、これから起きる悲劇の序章に過ぎなかったのです。

やがて不眠不休でその原因を研究してきた田所博士らによって、日本列島が2年で海中へ沈没してしまうことが明らかになります。

つまり2年以内で1億人以上の人口を有する日本国民たちを海外へ避難させる必要が出てきたのです。

しかも列島はプレートに巻き込まれる形で人口が密集している太平洋側から傾いて沈没してゆき、さらには中央構造線沿いに列島が折れる形で海水が侵入してきている状態で、各地の主要道路、鉄道、空港、海港が使用不可の状態となり、脱出も容易ではなく日本中がパニック状態に陥ります。

そして1億人にのぼる大量の移民が発生する状況は世界にとっても始めての出来事であり、分散して日本国民を受け入れる世界各国も混乱に陥ります。

日本列島が沈没するという天変地異が起きたとしたらどのような悲劇が起こるのか?、避難にあたりどのような問題が発生するのか?、そして故郷、国土そのものが文字通り地上から消滅してしまう国民たちの心理的喪失がどのようなものなのか?、こうした事象が迫真の文章で綴られており、実際このような経緯を辿るのだろうなと思わず納得してしまうようなリアリティがあります。

また見逃せないのが物語の序盤から登場する深海潜水艇の操縦士である小野寺たちを始めとした個人のストーリーです。

やはり人間の感情として自分の命だけでなく、家族や恋人の命を何とか救いたいというのは自然なことであり、来たるべき災害へ備えて第一線で活躍してきた使命感との狭間で揺れ動く登場人物たちの心情を追ってゆくというのも本作品を見どころの1つです。

自然災害に備えることの重要性がメディアや自治体などによって呼びかけられていますが、人間の力では避けようのない天変地異を現実感を伴いながら追体験できる唯一無二の作品であり、これがSF小説という枠を超えて長年読み継がれてきた理由ではないでしょうか。

上下巻合わせて800ページに及ぶ大作でありながら、最初から最後まで手に汗握る展開で読者を引き込んでゆく作品です。