拳に賭けた男たち―日本ボクシング熱闘史
出版されたのが1996年と少し古いですが、明治から平成に至るまでの日本のボクシングの歴史を網羅した1冊です。
個々の名選手にスポットを当てた本はよく見かけますが、日本ボクシング界の通史として書かれた本書は大変貴重な存在です。
明治から大正にかけての時代は、ボクシング先進国である欧米に有色人種への偏見が根強く残っていた時代であり、日本ボクシング界の黎明期に渡米して果敢なチャレンジをする日本人たちの姿は、開拓民を彷彿とさせるものがあります。
やがて昭和に入り戦前の伝説的ボクサーの"ピストン堀口"についても詳しく書かれており、生涯に176戦を経験したその戦歴は驚異的な数字であり、まさしく「拳聖」に相応しい存在感があります。
第二次世界大戦を挟んで国民的ヒーローとなった白井義男については、引退試合が史上最高の96%という視聴率を叩き出していることから、敗戦の復興途上にある日本にとって、いかに巨大な希望の星だったかという雰囲気が伝わってきます。
それから時代は下って、ファイティング原田、輪島功一、ガッツ石松、具志堅用高といった今でもお馴染みのボクサーたちを始め、悲劇の天才ボクサー大場政夫の活躍で日本のボクシング界は全盛を迎え、そして彼らの引退と共に衰退期を経て平成のボクサーたちによって、再生へのバトンが渡されてゆきます。
一方で日本のボクシング界における裏社会との繋がりや、繰り返す協会の分裂に対しても著者は痛烈な批判を加えていますが、そこには野球やサッカーのように効率的に組織化によって大成功した競技との"差"を感じずにはいられません。
現在は日本国内に同じ階級のチャンピオンが乱立するような状況は無くなりましたが、世界的に見てもWBAとWBCを初めとした大小様々な団体のチャンピオンが存在し、統一王者の称号はあるものの混沌とした感は否めません。
ただし一方で本書のタイトルにある通りボクシングに賭けた男たちの情熱は本物であり、数限りない死闘の歴史が現在の日本人チャンピオンを輝かせている礎になっていることは間違いありませんし、ボクシングの魅力を再発見させてくれる1冊であるといえます。