小説 二宮金次郎
二宮金次郎といえば、薪を背負いながら読書をしている像が全国の学校に残っていますが、その具体的な功績はそれほど知られていません。
これは戦前、戦中の政府が"二宮金次郎"を勤勉さ融和精神の象徴として戦争協力(挙国一致)のために政治的に利用したこともあり、戦後の教育では、意識的に重要視されなかったという見方もできます(戦後には、二宮金次郎の像を撤去した学校もあったようです)。
小田原藩領内の農民として生まれた金次郎は、少年時代に両親を相次いで亡くし、更には酒匂川の氾濫で自らの農地を失うに至って困窮した生活を余儀なくされます。
しかし持ち前の勤労精神で生家を復活させ、武家奉公先では家老・服部家の財政を建て直します。
その手腕を藩主の大久保忠真に見込まれ、荒廃した下野国桜町(分家・宇津家の知行地)の復興を全面的に任され、見事に成功させます。
金次郎と同じように米沢藩の財政危機を建て直した上杉鷹山の規模と比べると、金次郎の実績は小さいかもしれませんが、鷹山がはじめから藩主の立場から改革できたことを考えると、武士をはじめとした反対勢力の抵抗の中で、農民(百姓)出身である金次郎が残した功績は決して劣るものではないでしょう。
本作はあくまで小説であるため脚色されている部分もありますが、金次郎が直面した様々な困難に思いが馳せられており、著者の童門冬二氏が二宮金次郎の生き方に強い共感を持っているとが分かります。
戦国武将や幕末の志士のように華々しい活躍をした人物を題材とした歴史小説もよいですが、生涯を土と共に暮らし、農民の復興に捧げた"二宮金次郎"の精神は、東日本大震災復興に直面している現在において、もう一度積極的な評価を行う時期に来ている気がします。