ハッピー・リタイアメント
浅田次郎氏が2009年に発表した作品です。
定年を間近に控えた財務省と自衛隊のノンキャリア組の2人。
そんな2人が"天下り"先の機関である、JAMS(全国中小企業振興会)へ赴任するところから物語が始まります。
そこは年代物の立派なオフィスですが、実際には仕事らしい仕事はなく、昨日まで現場の一線で働いてきた2人は戸惑いを隠せません。やがて"立花葵"という美人秘書が2人へ"大仕事"を打診するところから、リタイア後の未来が大きく変わろうとしてゆきます。。。
「天下り」というと批判的な意味合いで使われますが、本書ではそれを社会的問題として真正面から取り組むといった深刻な内容ではありません。
あくまでも「天下り」をテーマに、浅田次郎らしい軽快な切り口でエンターテイメント小説として仕上げた作品です。
また「天下り」自体は、主に官僚組織を対象にすることが多いですが、普通に民間企業でも子会社への出向という形で見受けられます。
個人的には、終身雇用や年功序列といった制度が崩壊している時代に直面し、定年も当分先の話のため、世代的に「天下り」という単語になかなか実感が湧きません。
「天下り」は別としても、どこかの会社で定年を数年後に迎える時がやって来たとき、自らの立っているポジションを鑑みて、はじめて"リタイヤ"という言葉が現実味を帯びてくるのだと思います。
本作の内容は半分がコメディでありながらも、ついそんな事を考えながら読み進めました。
もっとも"生涯現役"を宣言して働く人も最近は増えているので、"リタイヤしない"という選択肢もあるのかも知れません。
ともかく主人公たちが身を持って「天下り」をナビゲートしてくれるかのような視点での描写は、浅田氏の安定した力量を感じます。