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ジャンル問わず気の向くまま読書しています。

出版大崩壊

出版大崩壊 (文春新書)

最近のもっともホットなWebの話題といえば、"電子書籍"です。

アマゾン「kindle」アップル「iPad」グーグル「nexus」楽天「kobo」・・・・その他にも電子書籍をサポートした多くのデバイスが発表されています。

紙媒体がデジタル化され場所や時間を選ばずに安価に書籍が入手できる時代の到来は、”便利”そのものであり、単純に喜ぶべきものであると考えているのは私だけではないはずです。

本書は出版社に30年以上にわたり勤め続けた山田順氏によって書かれた本です。
著者は電子書籍に限りない可能性を感じ、長年務めた出版社を飛び出しましたが、やがてその未来が限りなく暗いことに気付き、その理由を1冊の本にしたという内容です。

書籍のデジタル化に伴い出版業界に携わる人々(編集、製紙、印刷、製本、流通、小売)が大きな打撃(=失業)し、個人が作者として電子書籍を出版できるといった仕組み(=セルフパブリッシング)が確立してゆくことは容易に想像できます。

Web上の情報は"無料"であるという文化がデジタルの宿命とも言える不正コピーの横行を招き、そして手軽な個人出版による書籍の氾濫により良質な作品が洪水の中に飲み込まれてゆくという本書の内容は、私にとって説得力のあるものでした。

これはインターネットに慣れ親しんだ若い世代になればなるほど顕著になってゆきます。

例えば新聞のような時事的な内容を扱ったWeb上のニュース、youtubeの中にある高品質な動画へ対してさえ料金を支払うという発想は薄く、たとえ支払ったとしても少額(=少なくとも紙面やDVDへ対して支払う金額より圧倒的に安い)であることが条件になります。

その結果として今までプロフェッショナルとして活躍してきた実力ある作家たちがアマチュア作家と同じ条件で競争せざるを得ない状況となり、コンテンツの品質が限りなく低下してゆくというものです。

私のように"読書"を趣味とする人間にとって読みたい作品が存在しない時代の到来は、デジタル化以前の問題です。

書籍や音楽のデジタル配信の世界に共通するのは、グーグルやアップル、アマゾンといったプラットを提供する企業のみが圧倒的な利益を得れる仕組みが主流になりつつあり、それはDeNAやGREEといったソーシャルゲームの分野にも完全に浸透しています。

そして何故かコンテンツを流通する仕組みを持ったこれらの企業がどれも30%のマージンを設定しているのも不思議ですが、彼らが驚異的な収益を上げているのも事実です。

もっと大きな視点から見ると、情報の共有化、そして共有化された情報は"無料"が当たり前といったインターネットの文化が曲がり角に差し掛かっていると感じます。