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ロゼッタストーン解読

ロゼッタストーン解読 (新潮文庫)

1798年ナポレオン・ボナパルト率いる5万のフランス軍は、敵対するイギリスを牽制するためにエジプト遠征を決行します。

それはフランス軍がはじめてエジプトに上陸した歴史的な第一歩の瞬間でもありました。

しかしフランス軍は灼熱の太陽、渇き、そしてペストに苦しめられ、最後はイギリスとオスマン帝国の攻勢によって撤退を余儀なくされます。

生き残った兵士は1万5千人にまで減り、決して名誉ある遠征とはいえない結果でした。

一方でナポレオンのエジプト遠征は、思わぬ副産物をもたらします。

それはナポレオンは軍勢とともに同行した学術調査団が持ち帰った、多くのエジプトの古代遺跡です。

やがて空前のエジプト・ブームがヨーロッパを席巻し、本書のタイトルである"ロゼッタストーン"はその象徴的な存在として広く知られるようになります。

"ロゼッタストーン"には古代エジプトの文字であるヒエログリフデモティック、そしてギリシア語という3つの文字で同じ内容が併記されており、長年にわたり神秘だったエジプトの歴史を明らかにする手がかかりとして重要な役割を果たすことになります。

失われた言語であり、誰も読むことのできなかったヒエログリフを解読したのが、高校の世界史でもお馴染みの"ジャン=フランソワ・シャンポリオン"であり、本書はそのシャンポリオンの生涯を描いた伝記です。

本書はシャンポリオンの人生を丁寧に追い続け、残された彼の書簡についても作品中で数多く紹介しています。

現代に生きる我々が、古代エジプトの歴史や文化を知ることができるのはシャンポリオンの功績によるところが大きく、彼が「エジプト学の父」と称される所以でもあります。

シャンポリオンはフランス革命による混乱期に育ちながらも少年期より非凡な才能を見せ、次々と外国語を習得してゆきます。

成人になる頃には10ヶ国にも及ぶ言語を理解し、その中にはエジプトの現代語である"コプト語"も含まれていました。

まさしく言語学の天才であり、その才能を生涯に渡ってヒエログリフの解読に注ぎ続けました。

彼は世渡りが上手なタイプではなく、自らの探究心を最優先するために、多くのライバルたちとの競争、そして研究を有利に進めるための駆け引きにはむしろ疎かったとさえいえます。

そこで忘れてはならいのが、12歳年上の兄"ジャック=ジョゼフ・シャンポリオン"の存在です。
弟の少年期には家庭教師として、青年期には教育のための資金を兄が援助しており、弟の才能を誰よりも早く見抜き、そして開花させます。

その後も生涯に渡ってその弟の研究活動を支え続け、この2人の関係は兄弟というより、親子のような感さえあります。


世界史の教科書では2~3行でしか書かれていないシャンポリオンの功績ですが、人間シャンポリオンの素顔を知るための伝記としては最適な1冊になっています。