きりぎりす
専門的知識を習得したい、先人たちの偉業を知りたい、感動したい、時間つぶしをしたい。
読書の動機は様々だと思いますが、太宰治氏の作品は読書好きにとって、単純に小説を読みたい時に手にとってしまう作家です。
本書は14本の短編からなりますが、どれも太宰治の特徴が良く出ています。
そこに壮大なテーマや哲学があるわけではないのですが、なぜか自分の人生というものを振り返らずにはいられなくなります。
人間というちっぽけな存在が内面に抱えている自己顕示と自己嫌悪を赤裸々に、そして自由に描いている彼の作風がそうさせると言わざるを得ません。
作品にはユーモラス、シリアスなものが混在していますが、それは切り口が異なるだけで、その根底にはどれも人間の悲哀が流れています。
もちろん自己啓発、自己研鑚を続けてゆく努力は必要だと思いますが、ひたすら成功だけを目指す人生だけではつまらない。人間の悲しい性をも受け入れてこそ人生は味わい深いものになる。
太宰治の作品はそんなメッセージを読者に伝えてくれます。
参考までに本書に収められている作品です。
- 燈籠
- 姥捨
- 黄金風景
- 畜犬談
- おしゃれ童子
- 皮膚と心
- 鴎
- 善蔵を思う
- きりぎりす
- 佐渡
- 千代女
- 風の便り
- 水仙
- 日の出前