レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

不連続殺人事件

不連続殺人事件 (角川文庫)

坂口安吾氏によるミステリー小説。

坂口安吾といえば日本文学を代表する作家の1人ですが、大のミステリー小説好きとしても知られています。

その趣味を存分に生かして本作「不連続殺人事件」は書かれました。

舞台は終戦間もない昭和22年(この作品が執筆された年と同じです)。

ある資産家の家にゆかりのある芸術家たち(作家、画家、女優など)が招待されます。そこで次々と起こる殺人事件。。。犯人は?そしてその目的は・・?

本作はミステリー小説という性質上、あまり内容には触れません。
ミステリー小説のネタばらしほど身も蓋もないものはありませんが、一方でその内容に触れずに作品の魅力を伝えるのもなかなか難しいものであり、"読書ブログ泣かせ"のジャンルであるといえます。

最初に書いたとおり坂口安吾は本職のミステリー作家ではありませんが、日本のミステリー小説史上に残る名作の1つとして挙げる人も少なくありません。

物語は人里離れた資産家の屋敷を事件の舞台としており、現実感よりもミステリー小説のための雰囲気作りを重要視しています。

また登場人物たちの職業から分かる通り、彼ら(彼女たち)は一癖も二癖もある個性を持っており、誰が殺人事件の犯人でもおかしくない雰囲気を醸し出しています。

人によってはミステリー小説の設定として"わざとらしい"と感じてしまうかもしれませんが、私個人は清々しささえ漂う(ミステリー小説の)本職ではない坂口氏だからこそ成し得た明らかな確信的な舞台作りとしてすんなり受け入れることができました。

結果として用意された小世界ともいえる山奥の屋敷で起こる出来事は、個性的なキャラクターたちの絶妙なやり取り、そして綿密な描写として作品のあちこちに残された伏線、犯人の壮大な犯行計画などと共に、ミステリー小説の王道的な作品として単純に楽しむことができました。

ミステリー小説ファン、そして坂口安吾ファンの両方に読んでほしい1冊です。