レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

宿敵〈上〉

宿敵〈上〉 (角川文庫)

宿敵」。

なんともシンプルでストレートなタイトルですが、遠藤周作氏による戦国時代を題材にした本格的な歴史小説です。

遠藤氏は幾つかの歴史小説を手掛けていますが、物語のスケールをそれほど広げずに登場人物の内面に迫った作品が多い印象があります。

その中にあって本作品は、秀吉の朝鮮出兵関ヶ原の戦いといった大きな舞台を描いた珍しい作品ではないでしょうか。

本作の主人公は、共に秀吉の近習として出世した"加藤清正"と"小西行長"であり、タイトルの"宿敵"とはこの2人の関係を表しています。

清正は"福島正則"と並ぶ秀吉麾下の猛将というイメージですが、熊本城などの築城や内政手腕についても定評のある名将として知られています。

一方の行長は、堺の商人の子として生まれ、石田三成と共に文官タイプの武将として、またキリシタン大名としても知られています。

秀吉が配下の武将同士を競わせたこともあり、はじめ2人はライバルとして、そして後に考え方や生き方の決定的な違いから"宿敵"として向かい合うことになります。

現代に生きる我々にとって決して相容れず、それでいて争い続けなければいけない「宿敵」という存在がある人は殆どいないのではないでしょうか。

そんな2人の内面を深く、そして鋭く観察してゆく本作品は、単なる歴史小説に留まらないテーマを読者に投げかけてくれる、遠藤氏らしい切り口であるといえます。