レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

星に願いを―さつき断景

星に願いを―さつき断景 (新潮文庫)

斬新な手法で書かれた重松清氏の小説。

サブタイトルの「さつき断景」にヒントがありますが、5月1日のみを舞台とした作品です。

もう少し詳しく説明すると、1995年から2000年までの6年間の5月1日を切り抜いて、3人の登場人物にスポットを当てています。

ただし3人はお互いに他人同士であり、物語的に交わることもありません。


1人目はあと数年で定年を迎え、さらに娘の結婚を間近に控えているアサダ氏。

2人目は小学生の娘を持つ平凡な会社員ヤマグチ氏。

3人目は高校入学を控えている少年タカユキ。


この3人は約20歳ずつ年の離れた別々の年代の登場人物であり、男性読者であれば誰か1人に自分を重ね合わせて読むことができるのもポイントです。

いずれも平凡な人たちですが、彼らが6年間という時間をどのように過ごしてきたかを綴っています。

例えば家族。
この作品の重要なテーマですが、年齢と共に家族の顔ぶれ、そして親や子どもたちとの関係も微妙に変化してゆきます。

さらには阪神淡路大震災地下鉄サリン事件など社会な重大な影響を与えた出来事が彼らにどのような影響を与えたかについても触れられています。

こうした機敏な描写は、重松氏のもっとも得意とする分野ではないでしょうか。

決して起伏のあるストーリーではないため淡々と読み進めながらも、思わず自分の人生を振り返らずにはいられない作品です。

とにかく斬新な切り口で書かれており、著者のチャレンジする姿勢は評価できます。